ジャガーにブルーフラッグ! マツダ787B グループCカー時代の到来 5:ル・マンを目指して奮闘、80-90年代、トヨタの成功そして挫折 Vol.3

夜明けのサルトサーキットを力走する787B。夜半に敢行したペースアップ策が、トップのメルセデスC11にトラブルを誘発させた。しかし、見事だったのは787Bの性能を100%使い切り、24時間をスプリントレースのように走った3人のドライバーだった。

1980年代の日本のモータースポーツは世界の扉を開けた時代だった。F1、WRC、
そしてスポーツカーレースの最高峰ル・マン24時間への挑戦。とくにメーカー技術力に栄誉がかけられた
ル・マンは日本勢にとっての悲願だった。勇躍参戦、そして栄光と敗戦。悲喜こもごもの物語があった。


【国内モータースポーツの隆盛 第11回 グループCカー時代の到来 5:ル・マンを目指して奮闘、成功そして挫折 Vol.3】

【2】から続く

 時代を追ってスペックを上げ、それに伴い相対的な戦闘力を増すという力関係にあった。集大成は、言わずと知れた787Bによる1991年の総合優勝だが、長く参戦活動を続けてきたマツダと主催者ACOとの関係が見えるような優勝だった。

 1991年はグループCカー規定のはざまにあった年で、優先されたのは新規定のNA3.5LCカー。しかし、F1に準じた車両で24時間の耐久性は皆無と判断されていた。一方、それまでのターボCカーは重量ハンディを負い、前年までとは異なる苦しい戦いが確実視されていた。

 こうしたなかで、IMSA-GTP規定はそれまでと変わらなかった。と言うより、変えるべき論理的な根拠がなく、このクラスから参戦を続けていたマツダにとっては、相対的に有利な環境が揃っていた。

 レースは、ここを勝負どころと見たマツダが夜半にペースアップ。これが応戦したターボCカー勢にトラブルを誘発させる結果となり、強豪を退ける優勝となった。記憶に残るのは、前年まで勝負にならなかったTWRシルクカットジャガー(1991年はXJR12)の背後に迫り、オフィシャルにブルーフラッグを振らせる場面だった。
 継続は力なり、を身をもって実践したマツダだが、24時間耐久で勝つにはドライバーのスピードも不可欠なことを示したジョニー・ハーバート/ベルトラン・ガショー/フォルカー・バイドラーの走りは圧巻だった。

 トヨタに遅れること1年、1986年からル・マン参戦を始めた日産は、1989年に態勢を一新。日産独自開発による新V型8気筒ターボエンジン(VRH35型)とローラ社に専用開発を依頼したシャシーを組み合わせ、一気に戦闘力を引き上げていた。

 1990年のル・マンではポールポジションを獲得。信頼性の問題で優勝に手は届かなかったが、翌年の活躍に大きな期待を抱かせる内容だった。しかし、Cカー規定が変更されたことで参戦を断念。代わって参戦した1992年のデイトナ24時間を圧倒的なスピードで制覇。果たせなかったル・マンの夢をデイトナで実現させていた。
 過去があるから現在がある。18年目に実を結んだマツダの挑戦、あと一歩、半歩と迫りながら勝ちに執念を燃やすトヨタの姿勢が可能性を物語る。



最初は量産車ベースのモデルで参戦活動を続けたマツダ。写真はグループCカー規定の始まった1982年の254。まだ総合優勝にはほど遠いカテゴリーでの戦いで、この時点で1991年の優勝を想像できた人間は誰もいなかった。





マツダは13B型ロータリーを使いグループC2クラスに転進。写真は1984年のル・マンを走る727C。まだ、トヨタも日産も参戦していなかった時期で、クラス優勝を勝ち取るケース(ローラ・マツダ)もあった。






マツダの活動が本格化するのは13G型3ローターを積んだ757(1986年ル・マン)を投入。続いて13J型4ローターを積む767を開発。ナイジェル・ストラウドの設計によるカーボンモノコックを持つ車両で、グループCカーとほぼ遜色のないレベルに仕上がっていた。


>>【画像16枚】優勝車を背に喜びを表す日産の優勝クルーとアンダース・オロフソン。世界3大24時間レース、ル・マン、スパ、デイトナのひとつを制覇した意味は大きかった。日産はGT-Rでスパを制しているだけに、残るはル・マンのひとつだけ。本格的な復帰が期待される

初出:ハチマルヒーロー 2016年 7月号 vol.36
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

グループCカー時代の到来 5:ル・マンを目指して奮闘、成功そして挫折(全3記事)

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【1】【2】から続く

text & photo : AKIHIKO OUCHI / 大内明彦

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