はたらくクルマ 小型EVトラックの変遷記(2016) 三菱ふそうeCanter

2017年に国内初の量産型電気小型トラックとして発売した「eCanter」は、電動で駆動することで排出ガスを一切出さず、騒音や振動も少ないため、CO2ゼロの輸送を実現する車両として日本、欧州各国、北米、オーストラリアやニュージーランドで多様な用途にて活用されている。5年の運用経験に基づいて「eCanter」次世代モデルは車両ラインアップを大幅に拡充することでより多くの物流ニーズに対応し、カーボンニュートラル輸送の実現を加速するソリューションとして大きな進化を遂げたという。そして2023年春、第4世代の発売

       
ダイムラー・トラック・アジア(DTA)が、’16年度にドイツ・ハノーバーで開催されたIAA国際商用車ショーに出展したのは、EV(=電気自動車)小型トラック「三菱ふそう eCanter」だ。

DTAでは、’10年にキャンターをベースにした第1世代の電気トラックを発表。’12年にはCHAdeMO(チャデモ)方式の急速充電や磁気共鳴方式のワイヤレス給電に対応した第2世代モデルを発表し、日本や欧州で公道での走行試験を実施した。これらの走行試験で得たデータやノウハウをもとに開発されたのが、今回出展された第3世代にあたるeCanterだ。

同モデルは量産を視野に入れて開発されたとのことで、今回出展したショーモデルをベースに商品化を行い、’17年後半から日本や米国、欧州の各地で市街地輸送を行う会社に導入。そして’19年くらいを目標に、一般ユーザーにも販売される予定だ。このシナリオどおりに進めば、国内外を問わず初の量産EV小型トラックとなる可能性が高い。

それでは、eCanterのスペックを見てみよう。まず気になる航続距離については、開発時の目標としていた100km以上を実現。一日の配送業務で走る距離は、国内の市街地を走る小型トラックの80%が50km前後とのこと(DTA調べ)なので、用途を限れば十分に実用化できるというわけだ。また走行距離がもっと長い場合でも、午前と午後の配送を2ルーチン化し、昼休み中に急速充電をするような使い方も考えられる。このようにトラック(路線バスも)は走行距離が管理しやすい運行形態があるので、乗用車よりもEV化しやすい特性を持っているのが特徴だ。

また、eCanterは搭載するリチウムイオンバッテリーを3〜5個にパッケージ化し、ユーザー(運送形態)のニーズに応じて複数のオプションを設定している。車両の購入時に搭載するバッテリーを5個/4個/3個といったように選ぶことで、GVWの枠内で積載重量を優先するか、航続距離を優先するかのチョイスができるのだ。先に触れた航続距離100km上というのは、バッテリーパッケージをフルに5個搭載した車両のスペックだ。

このバッテリーの搭載オプションは、国内の法規にも対応できるはず。実際に業務で使ってみて「積載量を減らしてももっと走行距離を伸ばしたい……」といった場合は構造変更をして、新規に車検を通せばいいわけだ。これは、大型トラックの燃料タンク容量を増減するのと同じような考え方だ。

eCanterの充電時間は、200Vの充電器で約7時間、急速充電では1時間弱(73‌kW、80%充電)。前述したように昼休み中などに急速充電をすれば、さらに1日の運行距離を伸ばすことが可能だ。今後、磁気共鳴方式などのワイヤレス給電(充電)システムなどが採用されれば、EVトラックとしての使い勝手はより高まっていくだろう。

搭載するモーターの最高出力は185kW、最大トルクは380Nm。モーターが発生する最大トルクの380Nmは、キャンターが搭載する4P10型ディーゼルエンジンの130PS仕様と同スペックだが、起動とほぼ同時に最大トルクを立ち上げるモーターの特性により、ストレスフリーの力強い動力性能を発揮するはず。

EVは複数のギア段をもったトランスミッションがないため、シームレスで滑らかな発進加速を得られるのが魅力だ。もちろんエンジン音がないEVトラックは、深夜や早朝の住宅地で周囲にやさしい配送業務ができる。排出ガスを発生させないというだけでなく、こうした意味でもEVトラックのメリットは大きい。

気になるEVトラックのランニングコストは、ディーゼル車比で1km走行あたり11万5000円ほど削減でき、イニシャルコストは約2年で回収できるとのこと。EVトラックは、冷蔵・冷凍庫内の予冷に安い深夜電力を使えば、さらにランニングコストを抑えることができるはず。走行距離が少ない都市内の配送業務でも、毎日稼働するトラックの年間走行距離は一般的な乗用車よりも多くなるので、イニシャルコストの償却という意味でもEV化が有利だ。

→【画像7枚】外装と内装の各所説明など

掲載:トラックグラフィックス2017 2017年2月1日発行(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)
文:米田 茂 写真:編集部

RECOMMENDED

RELATED