圧倒的な速さを持つポルシェ956が賞レースを総なめ。日本ではグループC規定のグランプリが開催され、956に対抗しようと動き出した|国内モータースポーツの隆盛 第16回【2】

歴史視点から振り返ってみても完成されたグループCARカーと評価されるポルシェ956。ポルシェ伝統の水平対向6気筒をターボ化してアルミモノコックシャシーに搭載。燃費を踏まえたレーシングカーですでに600psを超えていた。

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グループC規定はレース中の使用燃料量の一律。これを導入した本当の目的は、燃料量を制限することによってスピード差をなくし拮抗したレースができるということだった。この規定の中で圧倒的な強さを誇ったのが、ポルシェ956だった。

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956を目標にしたCカー活動 背中も見えない遠い存在だった

 ポルシェの開発拠点であるバイザッハでテストを繰り返した956は、この年のWEC第2戦、5月のシルバーストン6時間でデビュー。ちょっとした、しかし前代未聞の見込み違いにより優勝はランチアLC1に譲ったが、第4戦のル・マンでは3台の956がゼッケンどおりに1~3フィニッシュを飾る快挙を演じてのけた。

 ル・マンで他を寄せ付けぬスピードと信頼性の高さを示した956は、その後参戦したWEC戦すべてで勝利。日本初上陸となる10月の富士WECにも、唯一この年のライバルと成り得たグループ6のランチアLC1と共に2台の956「ロスマンズ・ポルシェ」で登場。未体験のスピードゾーンを披露したが、度胆を抜くというより、まるでひとつの芸術作品のように、その美しいボディフォルムで日本のファンを魅了した。

 振り返れば、レーシングポルシェの日本上陸は、いつの時代も完成されたフォルムでファンの目を釘付けにしていた。64年第2回日本グランプリの904、66年第3回日本グランプリの906、68年第5回日本グランプリの910、69年日本グランプリの917と908スパイダーなど。

 これらはすべて、それぞれの時代をリードする第一級のレーシングスポーツだったが、フォルムの美しさもポルシェの大きな特長となっていた。

 82年のWEC富士は、ジャッキー・イクス/ヨッヘン・マス組の956 1号車が、2番手ランチアLC1に2ラップの差をつけて快走。956強しの印象を鮮明に焼き付けた。

 そして翌83年、956は市販仕様が作られプライベートユーザーに販売された。これもポルシェの伝統で、よほどのことがない限り、ワークス活動のために作られた車両は、翌年カスタマース仕様として市販された。

 グループC規定施行初年の82年、旧グループ6カーの改造仕様などで急場をしのいでいたプライベートチームの多くが956を購入。ポルシェの使い手として知られるヨースト、クレマーなども名前を連ねていた。

 一方、グループC規定に将来的な可能性を見いだしていた日本のモーターレーシング界は、早くも翌83年にグループC規定によるJSPC(全日本スポーツプロトタイプカー選手権)を立ち上げた。82年のWEC同様、とにかく間口を広く構えて参戦車両を募り、開催を重ねることでシリーズとしての定着を意図したものだった。

 この動きに呼応したのが、日産宣伝3課を取りまとめの窓口とする日産系の有力ユーザーと、やはりプライベーターながらメーカーに代わってトヨタ車による活動を積極展開していたトムスとそのパートナーの童夢だった。

 日産勢は実績あるマーチエンジニアリング社製、国産のLM製シャシーにシルエットフォーミュラから続くLZ20B型ターボを組み合わせる手法、トムスはWRCセリカ(TA64)と共通のパワーユニットとなる4T・G型ターボに童夢製作の83Cシャシーを組み合わせる手法で、それぞれグループCカーを企画した。

 メーカー内製によるグループCカーではなかったが、間接的にメーカーの支援を受けるかたちで本格的なレース活動が始まった。
【画像20枚】1983年富士WECローリングラップ中の一団。ワークスの2台を最前列に松田コレクション、トラスト、アドバンと956を使う日本勢が一気に増えていた



>>1982年、富士WECでグループ6のランチアLC1とともに日本初上陸したポルシェ956の印象は鮮烈だった。見て美しく、走ってケタ違いのスピードだった。この1レースで、日本に多くのグループCカーファンが誕生した。



>>伸びやかなフォルムを持つ956サイドビュー(ショートテール仕様)。まさに機能美というのだろうか、速いレーシングカーは美しく見えるというが、956がまさにそうだった。

【3】へ続く

国内モータースポーツの隆盛 第16回(全5記事)
初出:ハチマルヒーロー 2017年9月号 Vol.43

(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
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TEXT:AKIHIKO OUCHI/大内明彦 COOPERATION:Fuji International Speedway Co.,Ltd./富士スピードウェイ

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