日本国内未発売の「ちょっと変わった」日本車。スバルの前に立ちはだかったアメリカのある法律|1986年式 スバル ブラット【3】

屋根はTバールーフのようになっている。2枚のルーフパネルと外すと茶色い樹脂製の小さなバイザーが自動で立ち上がり、両側サイドウィンドウ上部にフレームが残る構造。そのおかげで雨漏りの心配はないという。

日本のメーカー製のクルマでありながら、日本国内では販売されない、いわゆる海外専売のクルマは少なくない。富士重工業が1977年に初代、81年に2代目を発売したスバル・ブラットもその中の1台だ。そんな日本で生まれて北米で販売されたピックアップと、日本生まれでアメリカに移住したクルマ好きがオークランドで出合った。

【アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方 第50回 1986年式 スバル ブラット vol.3】

小型ピックアップなら便利だし燃費もいいだろうと思って探したら、オークランド市内の女性が売りに出していたのがこのブラットだったんですね」

前オーナーはブラットをとても気に入っていて大切にしていたが、スモッグ(定期排ガス検査)を通すのが大変だと話し、それに疲れ果てたようだった。そんな車両をどう維持していくか。それはメカニックであるユキさん自身の腕次第となった。

スバル・ブラットというのはちょっと変わった日本車である。当初からアメリカ市場向けに開発された車種であって、日本国内では販売されなかった。

1970年代初頭、きっかけはダットサンのピックアップトラックの人気だった。商機を逃すまいとトヨタは独自に、いすゞとマツダはそれぞれアメリカのメーカーとタイアップしてシェアを取ろうとした。困っていたのはスバルだ。

スバルの前に立ちはだかったのは「チキンタックス」と呼ばれたアメリカの法律だった。これはアメリカに輸入されるトラックには25%という高い関税をかけるというもの。

その妙な通称の由来はこうだ。60年代初頭ヨーロッパの国々が地元生産者を守るためアメリカ産の鶏肉(チキン)を排除する政策をとった。報復的にアメリカが策定したのが輸入トラックへの関税だった。

狙いをつけたのはフォルクスワーゲン製ライトトラックだったが法律上で名指しはできなかったので、後発の日本メーカーにとっても厄介な法律になってしまった。

【画像15枚】「チキンタックス」という輸入トラックにかけられた法律はスバルを標的にしたものではなかったが、結果的に苦しめられることになってしまった。運転席から天井を見上げるとルーフ後部にある室内灯が目に入る。回転式になっていてマップライトとしても使える設計のようだった。でも実際には「とても使い物にならない」ので、ユキさんはLEDライトを自分で取り付けた


>>サイドビューを見ると太いBピラーが重要な構造要素になっている様子がわかる。アメ車に詳しい人にはどことなくシボレー・エル カミーノを思い起こさせるだろう。ホイールはオリジナルのアルミ製だ。


>>「86年式にはジャンプシートがついていなかったそうです。このシートは後付けされたものみたいです。実際に乗車するときにはシートベルトの着用が必要になりますね」。ジャンプシートは硬い樹脂製で、クッションやスプリングは全くなし。乗用車としての乗り心地は決していいとは思えなかった。


【4】へ続く


初出:ノスタルジックヒーロー2019年8月号 Vol.194
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)


ニッポン旧車の楽しみ方第50回 スバル・ブラット(全5記事)

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text&photo:Hisashi Masui/増井久志

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