280ZXターボのエンジンを積んだ510を『ターボ6』と呼ぶイタ車オーナーの駆け込み寺、シャンクさん|1989年式 トヨタ MR2【3】

「MR2が発売になった時、ツインカムだし7500rpmまで回るっていうのがいいと思った。欲しかったけどね。さすがに高価だったので、ホンダCRXが初めて買ったクルマになりました。今考えてみれば、所有したクルマではあのCRXが唯一の新車でした」。このMR2のエンジンはオリジナルのままで、スーパーチャージャーは走行距離数の少ない中古品に交換した

       
【2】から続く 

日本の自動車メーカーとして初めて本格的なミッドシップレイアウトを採用したスポーツカーがトヨタのMR2だ。当時は「スポーティーカー」などと称していたが、目指していたところはいわゆるスーパーカーのイメージだったことは明らかだろう。そんなスタイルとミッドシップレイアウトの運動性にほれ込み、鮮やかなイタリアンレッドのMR2に乗るオーナーに話を聞いた。

【ニッポン旧車の楽しみ方第46回 1989年式 トヨタ MR2 vol.3】

 イタリアン・クラシックカーに造詣の深いシャンクさん。クルマとの出合いは日本車のほうが先だったそうだ。80年代半ばのことである。

「南部のジョージア州アトランタでアパートに住んでいたころ、ダットサン510が駐車場に止めてあった。ブライアン・フェルドマンという人のクルマで、当時510のパワーチューニングを楽しんでいた人なんて他にはいなかった。ダットサン280ZXターボのエンジンを積んでいて『ターボ6』って呼んでいました。時々乗せてもらって一緒に遊んだんだ」

 さらにこのターボ6には後日談がある。97年に改造オーナーの手を離れた個体は、巡り巡ってカリフォルニアへ渡った。現在車両を所有するショップのオーナーは当時のフェルドマンさんを知る人だ。そのオーナーから塗装の仕事がシャンクさんへ舞い込んできた。

「つい半年前かそこらのことですよ。34年ぶりにあのターボ6が、このガレージに来たんだ。オーナーの注文通り、同色のままきれいに塗り直しました」

 妥協ない仕上がりを追求するシャンクさんの塗装。こだわりの理由は、やはりその趣味性にあった。

「もともとはレストア費を節約するために自分で塗装をやりだしたのが始まりでした。そのうち人からも頼まれるようになって、これは商売として成り立ちそうだな、と思った」

 美しいクルマはあくまでも趣味。商売が目的ではないため、自分の満足する良質な塗料を使い続けている。

「ある日この自宅の近所で古いイタリア車を見つけてね。引き取って自分でレストアを始めたのが、今のイタリアンクラシックにかかわるきっかけだった。自分で整備しながら長く乗っていれば、同種のクルマを修理できるくらいにはなります。例えばね」

 言いかけたシャンクさんは脇のアルファロメオ・ジュリエッタを指差した。

「このアルファの右側のタイヤのラグナットは左ネジになってるんだ。そういった車種ごとの特殊性を知らないようなメカニックに任せたりしたら、すぐにネジをダメにされちまうよ」

 いい加減な修理をしたら人を殺してしまいかねないんだから、との言葉に緊張が走った。シャンクさんの漂わせるこの情熱と真剣さに接した人たちは、次々と口コミでシャンクさんのことを伝え、次第に助けを求めるイタリア車オーナーが集まるようになった。

「何年か前までは古いクルマなんて誰も見向きもしなかったし、レストアなんてお金がかかるばかりで、クルマに大した価値もなかったから誰もやらなかった。最近は旧車が1台10万ドルにも達するようになって、ようやくレストアの数も増えてきたんじゃないかな」

旧車のレストアは、完了しないまま放り出されてしまうことも実は多いのだという。

「例えば、知らないうちにショップが廃業してしまって、持ち出されたクルマがどこへ行ったか分からなくなってしまう。そんな話を聞きます。私もある時、路肩に放置されたクルマに見覚えがあったのでオーナーだった人に連絡したこともありました」

 1台のレストアを滞りなく完了させることは、技術や時間だけでなく、情熱と根気、加えて資金も必要となる大仕事だ。きちんとオーナーに所有され、丁寧に維持されている旧車は、実はとても幸運なのである。

【画像12枚】スーパーカーにあこがれて育った子どもたちは、免許を取ってMR2に乗ることで、ほてった気持ちを冷ました


>>塗装の仕上がりがよく分かる、明るい照明に照らされた作業場兼用のガレージは、4台が余裕で収まる広さ。右奥に見える赤いクルマが60年式アルファロメオ・ジュリエッタスパイダーノルマーレ。普段はカバーをかけてある。


>>黒いストラットタワーバーはオリジナルのもの。マスターシリンダーはボディに追加固定してあった。「ブレーキ回りが緩いと不安定だからです。ブレーキ配分がフロントに寄り過ぎだと思ったのでそれも好みに調整しました」。ボンネット下にはテンパータイヤが収納され、わずかながらもラゲッジスペースが確保されている。


>>シャンクさんはなんと、日本のクルマ雑誌「カーセンサー」の表紙に載ったこともあるのだ。1997年2月号。「日本から近所に取材にきていたらしい撮影クルーが、うちに止めてあったクルマに気がついて、写真を撮らせてほしいと訪ねて来たんです」。表紙になったクルマは現在も所有している1962年式フィアット・アバルトアレマーノ1000スコルピオーネクーペという非常に長い名前の、非常にレアなクルマ。「撮影は夏だったんだけど該当号の発行が冬だというから、暑い日だったのに長袖を着てくれと言われたんだ」と当日の思い出を語った。



【1】【2】から続く


初出:ノスタルジックヒーロー2018年12月号 Vol.190
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)


ニッポン旧車の楽しみ方第46回 1989年式 トヨタ MR2(全3記事)

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text&photo:Hisashi Masui/増井久志

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