サンフランシスコ湾を望む住宅地「レストアは全部自分でやります」30年来のMR2好き|1989年式 トヨタ MR2【1】

MR2にゾッコンほれ込んでいる様子のシャンクさん。ディテールの説明にも1つ1つ熱が入り、おしゃべりは止まらない。Tバールーフになっている屋根の部分のデザインがいかにきれいで、いかに作りがいいか、時間を忘れて身振り手振りで説明を続けていた

       
日本の自動車メーカーとして初めて本格的なミッドシップレイアウトを採用したスポーツカーがトヨタのMR2だ。当時は「スポーティーカー」などと称していたが、目指していたところはいわゆるスーパーカーのイメージだったことは明らかだろう。そんなスタイルとミッドシップレイアウトの運動性にほれ込み、鮮やかなイタリアンレッドのMR2に乗るオーナーに話を聞いた。

【ニッポン旧車の楽しみ方第46回 1989年式 トヨタ MR2 vol.1】

 カリフォルニア州リッチモンドといえば、日本を含めたアジアからの輸入車陸揚げ専用の港のある街だ。丘を上り、高台の住宅地を西に向いて歩くと静かなサンフランシスコ湾を望む。

 そんな路地の行き止まった角地にアンディ・シャンクさんの自宅があった。裏庭へ回ると、よく手入れされたガーデンと並んで、大きなガレージがあった。入ると中は眩しいくらい明るかった。

「このトヨタMR2は2010年に、インターネットフォーラムで知り合ったメンバーから買いました。すぐにボディの傷んでいた部分を直して、塗装を始めました。シュピースヘッカー社製シングルステージのウレタン塗料、FER300番でフェラーリ・レーシングレッドという色です」

 シャンクさんが愛車の真っ赤なMR2を紹介した。車体には曇りひとつなく、ガレージ内の明るい照明を美しく映し込んでいる。その隣には、プライマー塗装ずみでドンガラのアルファロメオ・スパイダーが置いてあった。

「どのクルマのレストアも全部自分でやります。MR2はコニ製サスを入れて足回りを丸ごとやり直したし、ブッシュ類もすべて交換した。可能な限りトヨタのOEMパーツを使いました」

 シャンクさんがそれほどまでMR2に入れ込むきっかけとなったのは、車両移動を請け負う会社で働いていた時に顧客のMR2を運転したことだった。30年ほど前の出来事だったという。

「あのころ自分のクルマは無限チューンしたホンダCRX(CR‐X)だったんだけど、その時に運転したMR2の重量配分の感覚が忘れられなかった」

 ミッドシップの実力に驚き、たった一度の体験でシャンクさんはMR2の魅力にとりつかれてしまったのだった。

 1970年代を振り返ってみると、日本車にはやり残したことが2つあった。それは過給機(ターボ)の搭載と、ミッドシップエンジンレイアウトの採用だ。どちらも国対抗レースが歴史的必然だったヨーロッパにおいて、レースから始まった技術だった。

 前者に関して日本では、73年のオイルショックから始まった燃費改善という時代の動きをうまく逆手にとって、70年代末ぎりぎりに日産がセドリックとグロリアで市販化にこぎつけた。

 後者のほうは「マイカー時代」にはいささか不具合で、2人乗りというぜいたくなクルマが量産市販化されるには、日本全体にもう少しの余裕が必要だった。70年代が終わり、バブル経済を目前にした84年、そんなぜいたく品を発売したのは意外にも、堅実なメーカーと思われていたトヨタ。MR2は同社にとってトヨタ2000GT以来のピュアスポーツだった。

【画像12枚】オーナーもとりつかれたというミッドシップの実力。MR2はトヨタにとって2000GT以来のピュアスポーツだった


>>MR2にゾッコンほれ込んでいる様子のシャンクさん。ディテールの説明にも1つ1つ熱が入り、おしゃべりは止まらない。Tバールーフになっている屋根の部分のデザインがいかにきれいで、いかに作りがいいか、時間を忘れて身振り手振りで説明を続けていた。


>>珍しいTRD仕様のナルディを装着。「元のモモのステアリングよりナルディのほうが好きで取り替えた」。ゲージ類も追加している。オドメーターは21万5000マイルを示していた。エアコンもR134a冷媒に入れ替え、クルーズコントロールも電灯類もすべて動作するようにしてあるのもシャンクさんのきっちりした性格ゆえ。


>>運転席に座り、バックしようと後ろを振り向くと、リアウインドーが目前に迫っていてびっくりする。せり上がったセンターコンソールはそのままアームレストになっており、コンソール下には細長い形状のガソリンタンクが収められている。ホールド性の良好なレザーシートについて「真っ黒でイタリア車みたいで、座り心地も気に入っています。レカロがデザインしたって聞いたんだけど本当かな」と、信じたいが信じきれない様子のシャンクさんだった。




【2】へ続く


初出:ノスタルジックヒーロー2018年12月号 Vol.190
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)


ニッポン旧車の楽しみ方第46回 1989年式 トヨタ MR2(全3記事)

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text&photo:Hisashi Masui/増井久志

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