「僕らは後輪駆動車に乗りたいんです」トヨタ車が人気。その理由は?|マレーシア・ペナン島のニッポン旧車ミーティング【1】

ペナンのニッポン旧車大集合!この日のデイトリップ先は島内北部のテロックバハン町にある森林公園だった。隣にはエントピア・バタフライファーム(蝶植物博物園)という施設もある。産業が発展しつつあるペナン島では、峠の道路までも十分に舗装が整っていたが、その半面歴史や自然を保存するための場所も多くあった。

       
本連載(ノスタルジックヒーロー178号掲載)でも紹介したマレーシアのニッポン旧車事情だが、今回はさらにディープに、観光地としても知られる「東洋の真珠」ことペナン島での旧車ミーティングを取材した。近年では観光地としてだけではなく、エレクトロニクス産業の発展も著しいペナン島は、人口も車両の数も増加中だという。当然それに比例してニッポン旧車のファンも増えているようだ。

【ニッポン旧車の楽しみ方第45回 マレーシア・ペナン島のニッポン旧車ミーティング vol.1】

日本から南へ。異国情緒たっぷりの東南アジアはリゾート地に事欠かない。フィリピンはセブ島、インドネシアはバリ島。タイならプーケット島。そしてマレーシアにはペナン島がある。

 首都クアラルンプールから北へ350km。この小さな島にも旧車ファンがたくさんいるのは、ひとえに人口が多いから。日本の石垣島よりやや大きいペナン島ではエレクトロニクス産業が盛んで、人口はなんと石垣島の15倍におよぶ。そんなペナン島でニッポン旧車仲間が集まる機会に遭遇した。

 日曜の昼下がり、郊外の路上にニッポン旧車が並んでいた。なぜかトヨタ車ばかりだ。その中の1台、黒いカローラワゴンを運転するスフィアン・アザリさんが車列を横目に、ペナンのニッポン旧車状況を語りはじめた。

「トヨタの旧車がいいのはダットサンよりちょっと安いから。もちろん国産車はもっと安いけど全部FFで、僕らは後輪駆動車に乗りたいんです」

 自分ではクルマをほとんどいじらないというアザリさんは、自宅には屋根付き駐車場があるだけ。トヨタの小型車ヴィオスに乗る奥さまは「きれいなクルマが好き」というだけで、旧車への理解は残念ながら薄いという。アザリさんは陽気に言葉を続けた。

 「修理パーツはマレーシアでも手に入ります。JDMのパーツが欲しい時に日本から取り寄せるくらい。マレーシアでは排気量20%増しまでの改造は認可を取れます。ポリスとは別のJPJというクルマに関する規則を決める役所があって、ポリスはクルマにほとんどかかわらない。JPJは厳しいから、もし路上で見かけたらとりあえず逃げるのが得策ですよ」

 とは言うものの、JPJとの遭遇は日常的にはまれなことらしかった。

 常夏のリゾート地ペナン島は歴史的には特別な存在だった。世界地図を見ながら船に乗ったつもりで海を指でなぞってみると、ヨーロッパから日本へ向かうのにはマラッカ海峡と呼ばれるマレーシア脇の海路を通らなければならない。

 ちょうどそこに位置したペナン島は航海時代における交通の要所、東西文化の交流点として栄えた。今でもジョージタウンの街に立てば、英国から受けた影響が色濃く残されているのに気づく。

 歴史あるリゾート地ゆえに、現在では古びた小さな家ですら購入しようとすれば数千万円の値を提示されるというから、この街に住むのは庶民には高根の花。豪華な家からは時々ドイツ製高級車が走り出てくる。

「先日の選挙でマハティール首相が再び誕生して政治に戻ってきた。これからに期待しています」

 クルマの話から突然、政治に話が飛んだ。35歳のアザリさんだけでなく国全体に期待が膨らんでいるという。どういうことだろう。

【画像18枚】郊外の路上に並ぶのは、何故かトヨタ車ばかり。ペナン島のニッポン旧車事情とは。そしてミーティング参加車両のスポーツイエローに塗装したPB210系ダットサン・サニーなど。足回りにはなんとダイハツ・ハイゼットの部品を流用しているという



>>ペナン国際空港の駐車場を見渡せば、今時のデザインのプロドゥアのクルマが増えていることが分かる。日本車や韓国車に交じってヨーロッパ車も目についた。島内の工業地帯にはハイテク企業が名をつらね、空港に降り立つ飛行機にはリゾート客にあわせて日本をはじめ各国からの出張者も多い。そんな現状を知ると、ペナン州が神奈川県と友好都市関係にあるというのもうなずけた。


>>ニッポン旧車がペナンの幹線道路を走っていく。ペナンではしばしばクルマが車線をまたいで走っていることに気がついた。オートバイが頻繁にクルマの間をすり抜けていくからだろうか。


>>バリックプラウという山の中の街を通り抜ける。カギ状に市街地を走り抜ける道路に、どこか日本の城下町を思い浮かべた。マレーシアでは排気量100ccくらいのオートバイが交通手段として普及している。昔の「ホンダ・カブ」タイプは減って、最近ではスポーツタイプの新型が増えた。運転手はホコリよけのためにジャンパーを後ろ前に着て、後ろ向きになったファスナーを開け放ってはためかせながら走っていることが多い。閉めると暑いからだ。




【2】へ続く


初出:ノスタルジックヒーロー2018年10月号 Vol.189
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)


マレーシア・ペナン島のニッポン旧車ミーティング 第45回 アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方(全3記事)

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text&photo:Hisashi Masui/増井久志

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