ノリに乗っていたシムカが送り出したヒット作|1973年式 シムカ 1000 GLS【2】

「ボクシー」という表現がピッタリとくるシンプルな箱型ボディながら、さすがイタリアの名匠マリオ・レベッリ伯爵の作品らしく、優雅な印象も与える。

       
【1】から続く

かつて五木寛之が著したオムニバス小説「雨の日にはクルマを磨いて」において、その冒頭から登場するシムカ1000は、1960〜70年代のフランスを代表する小型ベルリーヌのひとつ。しかし、イタリアのDNAを大きく受け継いだモデルでもある。

【ハチマルユーロー 1973年式 シムカ 1000 GLS vol.2】

 第二次大戦後になると、ぜいたくなクーペ/デカポタブル「8‐1200スポール」もカタログに加えて独自の商品展開を行っていたシムカは、51年には、その前年に登場したフィアット1100/103のコンポーネンツを流用しつつも、独自デザインのボディを与えた「アロンド」が成功を収めたことにより、フランス第4のメーカーへと上り詰めることになる。

 そして54年には、米フォードのフランス拠点フォードSAF、59年には高級車メーカーの「タルボ・ラーゴ」まで買収し、まさに乗りに乗っていた時期のシムカが送り出したのが、61年のパリ・サロンにてデビューし、同社にとって最高のヒット作となった「1000」である。

 シムカ1000は、依然として株式の50%以上を保有する事実上の親会社であったフィアットの傑作小型車「600」と基本を同じにするシャシーを持つ。しかしボクシーで簡潔な4ドアボディは、伊カロッツェリア・ギア出身の名デザイナー、マリオ・レベッリ・デ・ボーモン伯爵の手掛けた独自のもの。

 また、約15度左傾して搭載された水冷直列4気筒OHV 944ccエンジンも、実質的な新設計とされた。一方サスペンションはフィアット600系のもので、フロントがウイッシュボーン/横置きリーフ、リアにはセミ・トレーリングアーム/コイルによる4輪独立懸架が採用された。

 こうして誕生したシムカ1000はアロンドと同様、モダンなスタイリングやメカニズムが、特にフランス国内では上々の評価をもって迎えられることになる。ところが生みの親であるシムカ社には、予想しえない落とし穴が待ち構えていた。

66年に北米ビッグ3の一つ、クライスラー・グループによって騙し討ちのごとく傘下に収められ、新たに「クライスラー・フランス」内の「シムカ」ブランドとなってしまったのである。

【画像13枚】 ボディデザインにたがわず、スクエア&シンプルなダッシュパネルなど



>>ボクシーなスタイルゆえに、フロントのラゲッジスペースもけっこうな容量となる。


>>この時期のGLSは、高性能版の「1000ラリー」と同じく1118ccエンジンを搭載。スタンダードでも54psを発生するとされるが、この取材車両は大径キャブも装着されていることから、ラリーと同様かそれ以上のパワーを得ているもよう。


>>前方にまで大きく開くエンジンフードと、効率の良さそうな排気マニホールドが特徴的。また箱型でスカスカのエンジンルームは、熱対策にも有利だろう。



1973年式 SIMCA 1000 GLS

全長×全幅×全高3940×1600×1460mm
ホイールベース2520mm
トレッド前/後1371/1314mm
車両重量890kg
エンジン種類 水冷直列4気筒OHV
総排気量1118cc
最高出力54/6000ps/rpm
最大トルク8.2/3200㎏-m/rpm 
ボア&ストローク74.0×65.0mm
圧縮比 8.2:1
トランスミッション 4MT
サスペンション 前独立ウィッシュボーン/横置半楕円リーフ
後独立セミトレーリングアーム/コイル
タイヤサイズ 145SR13


【3】へ続く


初出:ノスタルジックヒーロー2018年10月号 Vol.189
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1973年式 シムカ 1000 GLS(全3記事)

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text: Hiromi Takeda/武田公実 photo: Jyunichi Okumura/奥村純一

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