「RX‐3クーペはブリッジポートの13Bにするか、それともストリートバージョンのターボにするか」【3】新たにSA22C RX-7を手に入れたロータリーマニア|1978年式 マツダ RX-7

経年で色の深みが増したという赤の1978年式マツダRX-7

       
取材時からさらに遡ること7年前、このノスタルジックヒーロー本誌連載に登場していただいたロータリーエンジン搭載車マニアのオーナーから、新たにSA22C RX-7を手に入れたという連絡があり、再びリポーターの増井久志さんがオーナーを訪ねた。今も変わらないロータリー車に囲まれての生活。しかし、時の流れとともに複数あった愛車たちにはいろいろな変化があったようだ。その様子をリポートする。

【ニッポン旧車の楽しみ方 第44回 新たにSA22C RX-7を手に入れたロータリーマニア Vol.3】

【2】から続く

 タウザーさんの自宅は、前回訪問時の状況からさらに増して、ロータリー関連の物品で埋めつくされていた。ドンガラやパーツ取りの車体まで含めて数えれば、R100(ファミリアロータリークーペ)からRX‐8まで、敷地内にその数なんと11台。

「昔RX‐3でオートクロスをやっていたことは話しただろ。インターネットの『売ります』でRX‐3のワゴンを見つけて、ヨセミテのほうまで取りに行ってきたんだ。今はそのレストアを進めてる」

 レースを戦った思い入れの強いRX‐3とくれば、たとえワゴンにだって力が入る。白く塗り直されたエンジンルームには、タウザーさんお得意の黄色いストライプ塗装の施されたブリッジポート仕様12A型エンジンが収めてあった。今はこの1台に注力しているが、他にもレストア計画は目白押し。にもかかわらず、なんと趣味が一つ増えたという。
「自転車を始めたんだ。ポールに勧められてさ。ロードレーサーを週2回、仕事の後に20マイルのライドをこなしてる。週末にはその倍は走るよ」



>> 凝り性な性格のタウザーさん、自転車を始めてから自宅の一部屋を自転車置き場に作り変えてしまった。かつて机があってマツダの小物が飾りつけられていた部屋だ。壁にかけられた6台の高級自転車の中には、1台8000ドルもするものも。「自分で気に入った部品を集めて、独自の自転車を組み立てるんだ。高価だけど、軽い部品のほうがいいんだよ」。

>> 【画像14枚】車体自体が物置のようになっていたが、シートでカバーしてあったエンジンルームには黄色いストライプに塗装されたエンジンが収まっていたRX-3ワゴンなど

 イベントに参加して100マイル(160km)の距離を走り抜いたこともある。6時間かけて、ひたすら前を向いて走り続けるのだ。
「クルマと違って、自転車は無心になって走れるのがいいんだよ」

 自転車に集中するときの気持ちをそう表現した。好きとなればのめり込み方は人一倍強いタウザーさん。上り坂で息切れするから、と禁煙することにした。好きだった紙巻きタバコから電子タバコに切り替え、徐々にニコチン量を減らしていった。
「完全にニコチンゼロにしてちょうど1週間。今日まで全く吸ってないよ」

 そう言って笑ったタウザーさんは50歳。ベンチプレスで鍛えた体で、フルタイムの会社勤めをこなしながらも、オフタイムには全力で趣味を楽しむ。時間ができればすぐに作業にとりかかるためなのか、ガレージの内外あちこちに部品が転がっていた。脇の作業台にはローターハウジングが一つ、まっすぐに立っている。
「ワゴンに12Aを積むのは決まりとして、RX‐3クーペはブリッジポートの13Bにするか、それともストリートバージョンのターボにするか、まだ決めかねてるんだ」

 ドンガラの車体と組み上がったエンジンを交互に指差しながら考えるように言った。どの車体にどのエンジンを積むか。気持ちは常に揺れ動く。
「自転車を始めてからはクルマを直すペースが少し遅くなってるけどね」
 それでもきっとすぐに仕上げるさ。言葉にしない自信がその表情から伝わってくる。

 ロータリーの火は絶やさない。そんな情熱がそこにはみなぎっていた。



>> 茶色のボディだったロータリートラックが真っ黒に変わっていた。3年前のこと、とタウザーさんが説明した。「家の前の路地に止めておいたら夜中にぶつけられたんだ。衝突音に気づかなくて、朝になって近所の人が『ぶつけられてるよ』って言いに来た。ひどい当て逃げだった。このトラックが歩道にまで乗り上げてたんだから」。当て逃げの犯人は見つからなかった。済んだことは仕方がない、とタウザーさんの口調は意外にも淡々としていた。





>> 7年前にはごちゃごちゃで足の踏み場もなかったこのビニールハウス。クルマの上にまで作りつけてあった手製の木の棚も取り払われてスッキリさっぱり。レーサー仕様だったというドンガラのR100とRX-3の姿もはっきりと見ることができた。


初出:ノスタルジックヒーロー 2018年8月号 Vol.188
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方 第44回(全3記事)

シリーズ: ニッポン旧車の楽しみ方

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【1】【2】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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