現存するOX99‐11は3台。唯一のシングルシーター【2】ヤマハ OX99 ‐ 11

2枚ウイングの考え方をとったフロント回りだが、一体化ボディと見せたところにうまさがあるデザイン

       
1990年頃から第2次スーパーカーブームと呼べるような動きが世界的に見られるようなった。バブル経済を追い風にした現象だが、当時F1に参戦していたヤマハはF1エンジンを搭載するとんでもないロードカーを企画した。陽の目を見ることなく試作に終わったモデルだが、四半世紀の時を超え、2016年、幻のモデルがよみがえることになった。

【 ヤマハ OX99 ‐ 11 Vol.2】

【1】から続く

 だいいち、F1に限らず純レーシングエンジンを積む市販車そのものの例がない。歴史的に見てもフォード・コルチナ(コスワースFVA)があるぐらいだろう。スカイラインGT‐RのS20型も、考え方はGR8型だが基本構造は異なっている。コルチナのFVAは思い切った例だが、それでも(と言うと語弊はあるが)1.6LのF2用ユニットだ。現役のF1エンジンを使うことなど考えられなかった。

 それにしても、なぜこの時期にヤマハがロードスポーツなのか? 振り返って考えれば、いくつか疑問が生じてくるかもしれない。
 そもそも、ヤマハの4輪車というのはどうなのか? という疑問もあるだろうが、OX99‐11を見れば、使われているのは量産車でなく、レーシングカーの技術であることは一目瞭然。市販高性能スポーツカーの域を超す基本構造を持つ車両だけに、プレス鋼板を溶接したモノコックボディと実用エンジンを組み合わせる量産車メーカーの生産技術は、この場合ほとんど役に立たないと言っていいだろう。

 こうした意味でのヤマハは、超高性能スポーツカー造りに関して、まったく問題ない条件、環境にあった。


>> 【画像14枚】ほぼセンターステアリングの着座ポジションで作られているインテリアや、 富士スピードウェイを走行するシーンなど


 一方、スーパースポーツカーを支持するユーザー事情はどうだったか? マーケット的には1970年代以降に確立されたスーパーカー市場が健在。1980年代に入ってモータースポーツを意識したフェラーリ288GTO(1984年)、その進化型となるF40(1987年)の登場により、目指すレベルが高性能から超高性能へと、一段上のレベルに突入したことを意識させる時代だった。

 また、折からの世界的好況。上級指向が追い風となり、スーパーカーの性能競争に火がついた。ジャガーXJ220(プロトデビュー1988年、市販1991年)、同じくジャガーXJR‐15(TWR製、1990年)、ブガッティEB110(1991年)などが相次いで登場。ちなみにレースでも成功を収めたマクラーレンF1が登場するのは、これより少し後、1993年のことになる。

 少量生産の体制でよく(というより企業として量産は無理)、性能の頂点がアピールできるスーパースポーツカーのカテゴリーは、ヤマハにとってまさに打ってつけと言ってよかった。

 鋭い切れ味、ピックアップのNA3.5LF1エンジンに、軽量、高剛性なボディ/シャシーの組み合わせは、大排気量エンジンと過給機で得た大馬力と引き替えに、重厚長大化した他社のスーパーGTとは異なる俊敏なピュアスポーツ性が大きな魅力だった。

 実際、OX99‐11の構造を見ると、フルカーボンモノコック(ルーフ部は構造部位として使っていない)にOX99型V型12気筒をダイレクトマウントする純レーシングコンストラクション。リアカウルを持ち上げ、エンジンベイだけ見ていると、NA3.5L時代のグループCカーと見間違うほどだ。

 しかし、考えてみればNA3.5LCカー、ジャガーXJR‐14やプジョー905は、もともとフォーミュラシャシー+スポーツカーカウルの発想で作られた車両だけに、期せずしてOX99‐11が似たとしても、コンセプトが同じなのだから当然だ。

 現存するOX99‐11は3台。いずれもプロトタイプだが、市販化を目指して開発を進める段階で、少しずつ仕様が異なっている。ここで紹介する赤のモデルは1号車で、シングルシーター仕様で作られているが、2号車(黒)以降は複座仕様となる。

 ボディデザインは由良拓也が担当。先端を低く抑えたノーズ部に、もう1枚大型ウイングを左右に渡して重ねた独特のフォルムだ。ライト回りのデザインが、彼の手掛けたマツダ717C/727Cやグッピーと似ていることに気付いた人もいることだろう。

 車体後部に回ると、ディフューザー形状で作られたリアアンダーカウルが目に飛び込んでくる。空力を活用するレーシングカーデザイナーの手による車両だということがひと目で分かる。

 市販化は、社会状況の変化(バブル経済の崩壊)などによって見送られることになったが、試作車の完成度は高く、その状態(生産性)から判断すると、かなり少ない台数しか想定していなかったことがうかがえる。



>> エンジンベイのレイアウトはレーシングカーそのもの。唯一、ロードカーであるため消音機能を持ったエキゾースト系が必要となり、補器類がビッシリと詰まったスペースに効率よく取り回されている。



初出:ハチマルヒーロー 2016年 7月号 vol.36
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ヤマハ OX99 ‐ 11(全2記事)


【1】から続く

text : Rino Creative/リノクリエイティブ photo : ISAO YATSUI/谷井 功

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