三菱製のダッジ「コルトGT」【2】クライスラーとの提携によってアメリカで発売されたコルト|1974年式 三菱 ダッジ コルトGT|ニッポン旧車の楽しみ方 第15回

後部窓も全開する開放感ある2ドアハードトップに、コークボトルラインをリファインしたダイナウエッジラインが「アメ車らしさ」を増幅する。1976年式以降は安全基準の強化によって、後部窓が固定式となった

       
「コルト」という車名は、日本のクルマ好きにとっては三菱車を表す代表的なもの、という印象のはず。その車名を持つクルマが、実はアメリカの自動車メーカーのブランドで売られていたのをご存じだろうか。1970年代前半に起こったオイルショックのとき、クライスラーの中の1ブランド「ダッジ」の小型車として、コルトGTが販売されていた。そのうちの1台が、価値の分かる人たちによって、良好なコンディションで残されているのだった。

【 ニッポン旧車の楽しみ方 第15回|1974年式 三菱 ダッジ コルトGT Vol.2】

【1】から続く

 ジープの完全ノックダウン生産(1953年)で有名な三菱のクルマ造りは、戦後になって航空機や2輪車造りから移ってきた他のクルマメーカーとは、趣を異にしていた。財閥系であり、戦前の造船から航空機製造を目指す過程で、内燃機関を開発したことが三菱のクルマ作りの発端だった。このような経緯のため、戦後もエンジン開発に熱心に取り組んで、近年におけるその代表的な革新技術が、このコルトの4G5型系アストロンエンジンに搭載されたサイレントシャフト(1974年)であった。

 多数の金属部品を高速で往復運動させるレシプロエンジンは、多くの機械振動を発生させる。直列4気筒エンジンの場合、ピストンの上下運動の振動を互いに打ち消すのは容易だが、複雑な形状を持つクランクシャフトの上下、左右、そして軸方向の振動を低減することは簡単でなかった。古くからあったランチェスターバランサーの考え方は、左右の振動を打ち消すことはできたものの、軸方向の振動を打ち消すことのできる技術は、この三菱のサイレントシャフトの登場まで、約70年も待たなければならなかったのである。

 その結果として出来上がったアストロンエンジンは、それまで実用は最大2Lといわれていた直4エンジンを、2.6Lまで拡大することに成功した。さらにこの技術は独ポルシェにも提供され、直4エンジン最大の3Lエンジンの実用に役立ったといわれている。
 今ではランサーエボリューションを始め、確固たるファンを確立した三菱だが、そのアメリカでの駆け出しは比較的遅かった。1971年にクライスラーと提携して、その名前で北米の販売チャネルを切り開く。初代コルトギャラン(1970年)がクライスラーのダッジブランドで販売された最初のクルマとなった。


>>【画像14枚】ドアの脇にはオリジナルオーナーによるものと思われるオイル交換の記録が、ガムテープにオレンジ色のペンで書かれて貼り付けてあった。その日付は1994年9月8日。購入から20年で5万17マイル(約8万キロ)にしか達していなかった。この走行距離から、クルマが大切に使われていた様子が想像できた


 70年代中盤に小型車の販売が伸びると、三菱は当然のごとく直接販売を考えた。80年代にかけての日米貿易摩擦の中、ビジネス上の利益配分問題から三菱とクライスラーの関係がぎくしゃくし始めると、1982年には三菱の名前で北米市場での併売開始。三菱スタリオン(ダッジ・コンクエスト、83年)がその代表格だった。そして1993年になると、両社の資本提携は微妙なうちに終了した。

 なお、由緒あるコルトの名前は車種を変えながら1994年まで使用され、三菱の車名として名高いものになった。
 



キャビンはGTらしい実に堂々としたもの。極上の状態で残るダブルストライプ入りのシートは、前後ともにもちろんオリジナルだ。オドメーターの表示は5万913マイル。ハロさんがオーナーになってからの1年間、わずかしか走行していないようだ。オートマの運転し心地も「なかなかいいもんですよ」とはハロさんの言葉。







4G52型アストロン2Lエンジン。サイレントシャフトのみならず、クライスラー「ヘミエンジン」とも共通する半球形燃焼室も特徴的なエンジンだ。2Lの排気量で96hpを発生した。マスターシリンダー周辺にはブレーキ液のためにサビが点在、バッテリー周辺も蒸発したバッテリー液のために一部塗装が変色していた。エンジンルームのプレートには3角形の三菱のマークと5角形のクライスラーのマークが並んでいたが、クルマの他の部分には三菱の名前は見られなかった。






【3】に続く
ノスタルジックヒーロー 2013年10月号 Vol.159
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ニッポン旧車の楽しみ方 第15回|1974年式 三菱 ダッジ コルトGT(全3記事)

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 【1】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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