「あの時に見た1枚の写真から僕の情熱は始まったんです」|1978年式 ダットサン トラック キングキャブ Vol.5

針金をのこぎりで切って彫金用ヤスリで形を整え、色を塗って取り付ける。キングキャブ仕様に改造した620を水色に塗装してルーフラックを取り付けた。クロムメッキ風の金属バンパーも同様に作れるそうだ。

       
移民の国、アメリカ。建国から2世紀以上を経た現在まで絶え間なく世界各国からの移民を受け入れ、人々は社会に溶け込みアメリカ文化を確立する原動力となっていく。ドイツ、日本、そしてブラジルに自分のルーツを持つオーナーが、ダットサン240Zを好きになったのをきっかけに、ニッポン旧車を持つ生活を楽しみ始めた。

【1978年式 ダットサン トラック キングキャブ Vol.5】

【4】から続く

 マスイさんは手先もとても器用だ。アメリカでよく知られているホットウィールブランドのミニカーを改造するのが趣味。自宅玄関脇にあるこぢんまりとした趣味部屋には掲げられたダットサンのイラストに合わせて、大小のモデルカーが積み重ねられていた。
「針金を使って、彫金用のヤスリで削って改造部品を作るんです。車体の塗装もします。ホットウィールは1つ1ドルと安いのでたくさん買えるし、日本旧車の新製品も最近よく発売されているんですよ」
 ミニカーで埋もれる作業台の一端に、「MASUI」と書かれた希望ナンバー制で獲得したナンバープレートが飾ってあった。



自宅玄関脇にある6畳間ほどの趣味部屋は、ミニカーをはじめとするクルマのおもちゃで満たされる。「冬になったら雪が積もって屋外での作業もできなくなるので、ミニカーの改造に没頭する時間がたくさん取れます」とマスイさんは説明。机の上の一角には「MASUI」のナンバープレートが置かれてあった。


「僕は、さすがにドイツ人にはみえないでしょ」

 おどけてみせて、仕事では父方のドイツ姓「スパット」を名乗る半面、プライベートでは母方の名字である「マスイ」を名乗り、自らのアイデンティティーを日本へ求め、祖先に思いをはせる。

「小さいころには母方のおばあちゃんにかわいがられました。母方の家族を通じて、日本にどこか興味をひかれ、歴史的な伝統というか、そういうものがあるなと感じていました。テレビで巨獣特捜ジャスピオンとか世界忍者戦ジライヤを見て、武術とか忍者とかサムライとか、かっこいいと思った。マスイ姓だったおじいちゃんは福島県の出身で、戦前にブラジルに移住したと聞きました。おばあちゃんの旧姓はホンダだったそうです」

 マスイさんの奥さん、アシュレイさんはメキシコの家系に系譜を持つ。2人の間に初めて生まれた子供、名はジヤ・サユリちゃん。アメリカに生まれる人たちは、こうして系譜の多様性を増していく。
 自身に流れる日本人の血を意識しながらも、それは日本旧車への情熱とは関係がないとマスイさんは言い切る。

「あの時に見た1枚の写真から僕の情熱は始まったんです」

 240Zの写真が脳裏に焼き付いている。

「ダットサン240Zは、時を超えたデザイン。発売された時も、そして現在でもその姿は美しい」
 日本にルーツを持つ自身の出自、そして日本にルーツを持つ旧車への興味は尽きることがない。

>>【画像14枚】取材時に進んで240Zを家の前で動かしていた若いころからのクルマ好きの父親のオズワルトさんや、アイダホ州リグビーにあるマスイさんの自宅など



ずらりと並んだ改造済みのミニカー。水色の620キングキャブ(中央上)は、シングルキャブのミニカーに全長を延ばす改造を施したもの。赤い620シングルキャブトラック(中央)と比べると、長さの違いがよくわかる。その左には赤と黄色に塗装済みの240Zが2台。左手前の銀色の240Zは塗装をはがしたところだ。カバーなしのヘッドライト仕様に改造するため、小さなドリルを使ってヘッドライト部分を削り落として穴が開けてあった。






初出:ノスタルジックヒーロー 2017年4月号 vol.180(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ダットサン・トラックの姿に魅せられて(全5記事)

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text & photo:HISASHI MASUI/増井久志

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