ドライバー情報 街道珍景 真夏のデイドリームビリーバー ネズミ捕りと老夫婦(長野県伊那市)

ネズミ捕り。えっ!? わい、スピード出てたん? と思わず恐怖する瞬間だ。

       
強い夏日。前方に立ち昇るかげろうがよく見えるくらい交通量がなく見通しが良い道路を走行中、気づかないうちに出てしまっているスピード。

全国各所に点在しているそうしたポイントで仕掛けられるワナの名は通称、ネズミ捕り。それまで爆走していた地元ナンバーの車両が妙に行儀良く走る予兆や、気が効いた対向車からのパッシング(合図)に気付かない、良く言えば命知らず、悪く言えば経験値が乏しく視野が狭く感度が鈍い他府県ナンバーの旅人や行商人はうっかり御用となってしまいがちだ。

おいしいお蕎麦で有名な長野県伊那市高遠町を横切る国道152号線もそんなポイントの一つなのだろうか。歩道から車道へ少し身を傾ける警察官の姿が前方に確認できた。奥の草むらにはパトカーがある。

それでも先行車は法定速度で走っているし、車間は十分に開けている。しかも車両は不正改造をしようがないレンタカーだ。なのになぜ? 昨晩の宿で風呂場に備え付けてある歯ブラシを余計に2本失敬したのがバレたのか。まさか。

しかし警察官は微動だにせず、視線は後方へ向けられている。自分ではない。良かった。それにしてもだ。警察官に見られていると思うと、なんかやましい気持ちになってしまうのは一体なぜなんだろう……なんて思いながら、通り過ぎざまあんまり見過ぎないよう視線を向けると、あれ、なんかおかしい、というか人じゃない。人形か、人形だったのか?


人形とわかりホッとする。タモリ感があるのはグラサンのせい?

これは確かめるしかないと、車両を止めて、見てみた。
しっかり人形だった。


後ろ姿は完璧に人に見えるのになあ。

左足に重心をかけた姿勢がなんとも人っぽいのに対し、顔の作りはなんてザツなのだろう。3つの点の集合体を人の顔のように見てしまう脳の働きのことをシミュラクラ現象と呼ぶそうだが、サングラスをかけた上半分は良いが、下半分の手抜き感は否めない。


間近で見ると、ホッペにネコっぽいツブツブがあるが作りはひどくザツだ。もしかしてサツとザツをかけたのか?

試しに顔の写真を撮り、下半分を隠してみる。すると、マスク美人現象と同じなのか、意外にきちんと見えるから不思議だ。これもシミュラクラ現象によるものか。


長野県的場は同地の地名。タイヤは本物を使用。

人形の顔よりも輪をかけてザツだったのがパトカーで、板に描かれた2D仕様。
Cピラーからの造形がマイティボーイ調なのは、板の寸法ゆえ、仕方がなかったのかもしれない。


パトカーを真横から見た図。タイヤはスタンドの役割も果たしている。


反対側もペイントされているが、添木が組まれていたり、文字が書かれていなかいことから、こちらが裏のようだ。

一体どんな人が作り、どんな意図があるのか……。
すぐ近くで農作業しているおばあがいたので、聞いてみようと、声をかけるが応答がない。


対面の畑で作業しているおばあに声をかけたが応答がない。よほど集中しているのだろうか。

というか、動かない。これもか。これもなのか。


というか、さっきから動いていない。もしかしてこちらも……。

人形だった。


後ろ姿を見る限り、人にしか見えない。

そのとなりの畑で、耕運機を操るおじいも……。


耕運機を使っているのは、服装や腰の曲がり具合からおじいに見える。

こちらも人形だ。マジか。

おばあとおじいのアップ【写真2枚】

そのさらに奥、草刈機を操っているのは、明らかに動いているのでさすがに人とわかるが、なんだかよくわからなくなってきた。


さらにその横で作業している人を発見したが、なんか声をかける気になれなかった。

名探偵でなくてもいちジャーナリストとして某人気番組のように謎を解き明かすべきだが、真夏の強い日差しで頭が朦朧としてきたので撤収を決断。謎は解けず仕舞いだが、健康第一。会社からも無理をするなと言われている。仕方あるまい。

少し走ると、野菜の無人販売店があった。
健康といえば野菜だし、田舎の野菜は総じてうまいイメージがある。おみやげ代わりに野菜を買おうと立ち寄るが、なんとそこにも人形。かわいいはずなのに一連の流れから不気味に見える。念のため写真を撮るが、シャッターを切る瞬間、瞳が閉じた。気がした。


「野さいどれでも100円です」と口調こそかわいらしいが、少々薄汚れた感じがなんとも。そもそも人形を置く必要、ありますかね?

一瞬で背筋が凍り、野菜を買わず一目散にクルマに乗り込み、逃げるようにブッ飛ばした。

すると、前方の路肩より警察官が現れた。
今回は人形ではなく本物……。

あの人形たちは、速度超過とネズミ捕りに気を付けなさいね〜という心優しい気遣いだったのかもしれない。

取材・文・写真:編集部

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