直線番長のスカイラインを追ったコーナリングマシンのベレット|いすゞ ベレット 1600 GT Vol.2|痛快スポーツモデル

1968年日本グランプリのスターティンググリッドにて。このレースは実質的にスカイラインGT対トヨタ1600GTとの一騎打ちで、米村はこの中に割って入り13位でゴール。

       
【いすゞ ベレット 1600 GT Vol.2】

Vol.1から続く

ベレット1500が持つ高いベースポテンシャル

 ベレットGTが本格参入した1965年以降も、それまで使われていたベレット1500は、依然としてプライベーターの間では主戦力として活躍することになる。もちろん経済的な事情によるものだが、逆に言えば、ベレット1500が持つベースポテンシャルがなかなか高かった、ということである。

 ベレットGTは、ISCC(イスズ・スポーツ・カー・クラブ)のクラブマンを軸に、鈴鹿、船橋でのツーリングカーレースへ積極的に参戦する姿勢を見せていた。ただ、参戦クラスはGT部門。ホモロゲーションの関係によるもので、相手はフェアレディやトライアンフTR4、ロータス・エランといった顔ぶれだったが、まだ外国車のほうが多かった時代である。

 興味深いのは、当時のメーカー系クラブである。誰もが入れるというわけではなく、ISCCの場合にはクラブ員の推薦が必要だった。生え抜きでワークス契約も結んだドライバーは浅岡重輝だが、その彼を頼ってISCCに入った慶応の学生がいた。後にトヨタのエース格となる福沢幸雄である。福沢はベレットに乗り、この1965年にメキメキと頭角を現し始めていた。

 翌1966年、ベレットGTもツーリングカークラスでの参戦に変わった。最初の大舞台は第3回日本グランプリのツーリングカー部門。相手はプリンスワークスのスカイラインGTと日産ワークスのブルーバードSSSで、トヨタ勢はプライベートのコロナ1600Sが少数顔を見せる程度だった。


1967年第4回日本グランプリ参戦時の米村車など【写真7枚】



 この大会は、いすゞにとって明と暗が同時に表れるレースとなっていた。明は浅岡のベレットGTが、スカイラインGTに次ぐ総合2位でフィニッシュしたこと。暗は若手期待の永井賢一が2周目のバンクでコースアウト。帰らぬ人となったことだ。

 そして注目は、公式戦初出場のプライベーター米村が、ベレット1500でワークス勢を相手に総合8位/クラス4位でゴールしたことだった。その後米村は、こうした堅実で速い走りが評価され、いすゞのワークスドライバーに迎え入れられることになる。

 1967年、日産とプリンスが合併したことで、スカイラインに日産系のドライバーが乗るようになった。ベレットGTにとっては大きな脅威で、パワー先行型で扱いにくいハンドリングのスカイラインGTを、巧みに操る田中健二郎の存在はとくに大きかった。

「ベレットのリアサスペンションはダイアゴナルリンク式で、レース用に車高を下げると大きくネガティブキャンバーがついてしまう。しかし、このことがグリップのよくない当時のタイヤを、コーナリング中にうまく接地させることになりましてね。ベレットは、当時のツーリングカー中ではコーナリング性能に優れたクルマでしたよ」



 スイングアーム系のサスペンションは、ストローク変化によってキャンバー角が変化する。伸びてポジティブ、縮んでネガティブという変わり方だ。

 米村によると、ストレートはさすがにスカイラインGTのほうが速いが、バンクを下ってからS字、100R、ヘアピンと続く区間ではベレットGTのほうが速く、直線で離された分を取り戻すことができたという。

「スカイライン勢の後ろにつけていると、コーナーで小刻みにテールが動いているのがよく見える。曲がりにくいクルマなんだな、と思うわけです」

 非力なベレットGTがパワーで勝るスカイラインGTを追いかけ回す構図なのかと思いきや、意外とそうでもなかったという。
「ベレットのエンジンはOHVでしたけど、途中で5ベアリングに代わってから、パワーも安定して壊れにくいエンジンになりましたね。たしかに排気量で勝る分、スカイラインのほうがパワーはありましたが、それほど著しい差ではなかったですよ」

 フィニッシュラインがヘアピンかどこかのコーナーだったら、スカイラインに対するベレットの勝率はもっと上がっていたかもしれない、という冗談話にまで発展するほどだった。


Vol.3に続く


初出:ノスタルジックヒーロー 2014年7月号 Vol.163(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

いすゞ ベレット 1600 GT(全3記事)

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text : AKIHIKO OUCHI/大内明彦

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