進化する「頭文字D」レプリカ【2】狙うは全域ファン・トゥ・ドライブ、4A‐GZE スーパーチャージャーの現代風アップデートに着手|奇跡の1台

ベース車両のエンジンルーム。ゴム類の劣化もなく、親身になって整備された痕跡があふれている。これをS/Cに換装する

       
スタートしていきなり、京都カーランドへの問い合わせが絶えなかったという頭文字D「秋山渉」仕様製作プロジェクト。
はじめの一歩、ベース車両を捜索していた得知雅人さんが、とんでもない品質のAE86を入手した。

【 進化する「頭文字D」レプリカ Vol.2】

【1】から続く

 もうひとつの朗報は、秋山仕様製作には欠かせない、過給器付きのエンジンも入手できたこと。秋山渉は、ストーリー中にエンジンを載せ替えAE86を進化させていく様がまるで拓海のようで、ほかの登場人物とは大きく異なる。拓海とバトルした前期型がターボ、その後S/Cに載せ替えている。今回製作するのは後期のS/C仕様。そのエンジンが見つかったのだ。

 「かつてはHKSも4A‐G型用のS/Cキットを発売していた時代もありました。いまではまず見つけることは不可能でしょう。よって純正の4A‐GZE型エンジンを探すことになるのですが、搭載されていたAE92とAE101の中古車人気がAE86に比べ圧倒的に低かったため、解体されてしまった個体が多いんです」とは得知さんの解説。

 さらに、エンジンブロックが強化される4A‐GZE型は、その壊れにくさから当時レーシングマシンのベースにされることが多く、その点でも現在、流通量が少ないのだという。そんな逆風のなかでのベースエンジンの発見。得知さんのこだわりとしては、エンジン単体ではなく、車両に搭載した状態で探していた。それは完動状態のチェックがしやすいのと、ハーネス類の流用のしやすさを考えてのことだ。



>> 第1世代では8.0だった圧縮比は、最終的に8.9まで高められパワーアップへつながった。10年足らずのモデルライフのため、残存台数も少ない4A-GZE型エンジン。


 エンジンのクランク軸から直接動力を抽出、吸気を圧縮させパワー向上を図るのがS/C。頭文字D劇中でもターボとの違い、アクセルレスポンスに忠実な走りが生き生きと描かれている。

「より大きなパワーをかせぎ出すという点ではターボは勝っているものの、どんな状況でもアクセルを踏みさえすれば確実に安定したパワーをひき出すことのできるスーパーチャージャーは、より排気量のある大きなNAエンジンに交換したかのようなパワーアップとレスポンスの両方を手にいれることができる」(ヤンマガKC 25巻より)と解説されている。

 そんな4A‐GZE型エンジンは、モデルライフとしては10年と、短命としても知られる。大きく分類すると3世代に分けられる。初めて積まれたのはAW11 MR2のマイナーチェンジ(1986年)から。パワーはベースの4A‐GE型から25 psアップの145ps。トルクは19.0kg‐m。この頃は無鉛ガソリン仕様だった。そのままのエンジンが翌年、AE92レビン/トレノに搭載される。この際、点火形式がデスビから同時点火へと変更されているが出力に変わりはない。


>>【画像14枚】希少すぎる純正ホイールなど。バンパーも、後塗りナシの純正ストック状態。樹脂そのものの梨地の風合いがそのまま残る


 変化が見られたのは、AE92のマイナーチェンジ(1989年)。吸気センサーがエアフロ式からスロットルポジション式へと変わり、無鉛プレミアム仕様となったこの第二世代は、165ps/21.0kg‐mへとパワー&トルクアップされた。あわせてレスポンスも向上している

 1991年のAE101に搭載されたのが、最終進化型となる第三世代。

 プーリー系の見直しなどにより、170㎰の大台に乗った。しかしその後は、ベースの4A‐GE型が20バルブに進化するものの、4A‐GZE型は16バルブの構成を変えることなく、1995年のAE111登場とともに姿を消した。
 秋山仕様は、熟成の進んだ第三世代の4A‐GZE型をチョイス。これを極上ボディへとコンバートする。




>> 得知さんが入手したAE101用S/Cユニット。秋山仕様はインタークーラーレスなので、それに準じる予定とのことだ。


「壊れにくいAE92後期型の4A‐GEをAE86に載せ替えるチューニングは、ふた昔前の定番でした。その次にはやり、今も主流なのが20バルブになったAE101からのエンジンの載せ替え。これらは市販のキットも数多くリリースされているので、どちらかというと、やさしい作業です」と得知さん。しかし、S/Cの載せ替えはそうカンタンにはいかないという。

「FF車用の配線を、FRのAE86に合うように引き直すことから始めます。点火方式も変わるのでコンピューターも変更。20年に手がけたデモカーを思い出します」と実績を振り返る。

 コンピューターについても、秋山渉が何を使っているかを推測しながらブランドをチョイスしていく予定だ。カーランドに、調子が悪いからと持ち込まれるAE86。その原因の多くはプライベートで行ったコンピューターセッティングであるケースが多いという。まだまだ現車合わせすらしないケースもあるようで、腕の差が大きく出るポイントだ。カーランドの場合は自動学習機能は使わず、すべて現車合わせ。さらにあえてロックをかけず、セッティングデータを開示しているという。


>> 群馬県・赤城山でウエットコンディションの中、高橋啓介のFD3S RX-7とバトルする秋山渉。ターボパワーを使い切れない啓介に対し、「ガソリン代に不自由しないおぼっちゃん育ち」には負けない、と闘志むき出しで立ち向かう。外観の特徴、カーボンボンネットやクラシカルなホイール、特異な形状のロールバーなど忠実に再現する予定だ。



 秋山仕様、としてのセッティングのキモはこうだ。

「同じ170psのエンジンだとしても、NAとS/Cでは踏んだフィールがまったく異なります。どっかんターボから載せ替えた秋山ですが、ありあまるパワーを技術でねじふせながらのスタイルは変わりました。高回転域から伸びていく楽しさが1.6LNAエンジンの利点。S/Cを低回転域からしっかり効かせて、全域で楽しいエンジンにしたいですね」
 日常でもしっかり使えるトータルバランスの高さを持ちながら、いざというときのキバもしっかりと備える、理想のエンジンを夢想する得知さんであった。

「S/Cのブースト圧の標準は0.6~0.8kgなんですが、秋山のように思い切って1.1kgあたりまで上げてみようかとも思ってます」

 ちなみに得知さんは研究用としてターボキットを装着した4A‐G型エンジンも入手。秋山仕様作りに誰よりも熱中しているのは、得知さん自身なのかもしれない。



>> “研究用”として入手したターボキット付きの4A-G。これで前期の秋山仕様のオーダーがきても対応できる!?


初出:ハチマルヒーロー 2016年 1月号 vol.33
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

進化する「頭文字D」レプリカ(全2記事)

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【1】から続く

text : KIYOSHI HATAZAWA/畑澤清志 photo : MINAI HIROTAKA/南井浩孝

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