進化する「頭文字D」レプリカ【1】ショップの選球眼、「秋山渉」レビン、極上ベース車あらわる|奇跡の1台

カーランド・得知雅人代表。彼のもとを通り過ぎていったAE86はのべ数万台。その目利きのテクニックは仙人級と断言しても異論はあるまい

       
スタートしていきなり、京都カーランドへの問い合わせが絶えなかったという頭文字D「秋山渉」仕様製作プロジェクト。
はじめの一歩、ベース車両を捜索していた得知雅人さんが、とんでもない品質のAE86を入手した。

【 進化する「頭文字D」レプリカ Vol.1】

 『頭文字D』レプリカといえば白黒パンダカラーのAE86トレノに異論はないだろう。主人公・藤原拓海の乗るそれは、作品のアイコンとして、ミニチュアカーなど多くのアイテムを生み出しながら世間に浸透している。その人気は国境を越え、欧米でも熱狂的なファンを生み、AE86は間違いなくクールジャパンの一翼を担っている。

 「スプリンター」でも「トレノ」でもなく、ハチロクとしての認知度はトヨタをも動かし、その型式名を車名としてよみがえらせるというミラクルをも生み出した。

 そこに、新たな潮流を作るべく前号よりスタートしたのが、「秋山渉」(あきやま・わたる)仕様の製作。劇中に登場する藤原拓海のライバル、秋山渉の乗るAE86レビンを実車化しよう、というこれまで誰も手掛けてこなかったプロジェクトだ。

>>【画像14枚】サビがなく現存するだけでも貴重なサンルーフ。もちろん完動。これを残し、ソリッドルーフに交換する。室内には当時モノのディーラーオプションのコンポも現存。シートの日焼けも皆無など

 これまであった、頭文字Dレプリカで著名なマシンの代表格といえば高橋兄弟の乗るFC3S&FD3Sの2台のRX‐7。チーム名「RedSuns」のステッカーチューンを施した車両は目にした読者も多いことだろう。

 しかしこの秋山渉仕様プロジェクトは本気の度合いが違う。原作に登場するマシンのディテールを徹底的に分析し、内外装・エンジンを含め秋山の乗るマシンそのものを作り込んでいくのだ。レプリカというレベルを超え、めざすは本物の秋山仕様なのだ。

 担当するのは、これまでAE86トレノ「藤原とうふ店」仕様の製作を数多く手掛けてきた、おなじみ京都カーランド。劇中、拓海の走りがステージアップするごとに仕様が変更されてきたAE86トレノを、「史実」に基づき忠実に作り込むノウハウと技術を備えているスペシャルショップだ。

 もうひとつお伝えしておくべきなのが、このマシンのオーナーが現役の声優だということ。その人の名は鶴岡聡さん。大のクルマ好きであり、この秋山仕様製作に踏み切ったきっかけは、声優界の大先輩・三木眞一郎さんの影響だった。三木さんは、「頭文字D」アニメシリーズで藤原拓海役を演じた声優。本人もそれをきっかけに作品世界に引かれ、藤原拓海レプリカを製作し、いまでもそれを愛車としている。もちろん製作・メンテナンスを担当するのはカーランドだ。

 この現実世界では、拓海に誘われて作られるという格好になった秋山仕様。前号でもお伝えしたが、着手するにあたってのいちばんのハードルは、ベース車両の入手。これがなくては話が先に進まないのだが、デビューから30年を超えたAE86にとっては、上質な車両を探すのは、カーランド代表の得知雅人さんをもってしても至難の業。

 純正部品も製造廃止の一途をたどっており、とくに秋山仕様を仕上げるのに欠かせない、スーパーチャージャー(以下S/C)仕様4A‐GZE型エンジンは、ほとんど流通のない状態。エンジン内部の構成部品にしても、ピストンリング、メタル、ガスケットなど最低限、走れるための部品の供給はあるものの、クランクシャフトなどは製廃となってしまっている。

 また、長く乗るためのオーバーホール。これについてもオーバーサイズピストンやトランスミッションの部品供給が終了するなど、4A‐G型エンジンを取り巻く状況もけっして明るい材料ばかりではない。

 ただ、そうした流通事情を熟知している得知さん。「ないものは知恵で」臨機応変に対応できる策はすでに蓄積済みだ。その評判は海を越えており、実際、記者がカーランド取材時には、純正パーツをまとめ買いに訪れる海外からのお客を何度も見かけている。

 そんな得知代表から、弾む声で連絡があったのは10月初旬。「最高のベース車両が見つかりましたよ」。いさんでカーランドに出向いてみると、そこにはありえないほど上質なAE86レビンの姿。それはまさに「奇跡の1台」だった。



 しっかりとツヤが残るボディは、屋根付きガレージ保管を物語る。といって箱入り娘として過剰に愛情をかけられた形跡はなく、雰囲気を壊すアフターパーツの類は一切取り付けられていない、デッドストック状態。カスタムとは無縁、トヨタディーラーで点検整備を欠かさずきっちり行なってきた印象。内装もフルノーマル。手荒く使われた形跡はまったくなく、分かる人にはわかる「ハチロクの香り」が濃密に漂っていた。

 また、この車両はパワーステアリング装着車。AE86前期ではパワステはオプション設定だったため、その装着率は得知代表によれば1割にも満たないという。そして秋山仕様を作るために欠かせないのが、サンルーフの有無。この車両はサンルーフ付きで、拓海仕様と同じく、内装はサンルーフとしながら外観上は、サンルーフ無しのクルマのルーフとなる再現が可能なのだ。ただ、サビもなく完ぺきに作動するサンルーフを殺してしまうのはやや良心が痛むところだが、忠実な再現のためにはやむなし、だ。

 レアな装備が揃いも揃ったベース車両。「このドナーは間違いなく、秋山仕様への『近道』です」と得知代表も太鼓判を押す。

 実車を確認に東京から訪れたオーナーの声優・鶴岡さんもその姿に猛烈に感動。数時間どっぷり車両を眺め、触れ続けた。さっそく師匠・三木さんにSNSで報告、「おいおい、まだお前のものじゃないけどな」と軽くあしらわれつつ、さっそく完成後に三木さんのトレノとドライブに行く約束をフライングゲットしていた。



Profile:三木眞一郎/SHIN-ICHIRO MIKI




3月18日生まれ。アニメ版「頭文字D」主人公・藤原拓海役を18年にわたって演じる。カーランド製作の拓海号レプリカをこよなく愛す。後輩・鶴岡さんにAE86の素晴らしさを伝授する。

Profile:鶴岡 聡/SATOSHI TSURUOKA




8月19日生まれ。「逆襲のシャア」池田秀一さんにあこがれ声優をめざす。車歴のほとんどはトヨタ車というトヨタフリーク。秋山仕様を大事に保管するための屋根付きガレージを探し中。


【2】に続く

初出:ハチマルヒーロー 2016年 1月号 vol.33
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

奇跡の1台|進化する「頭文字D」レプリカ(全2記事)

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text : KIYOSHI HATAZAWA/畑澤清志 photo : MINAI HIROTAKA/南井浩孝

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