トレーラーに載ってやってきたダットサン【3】「ダットサンの年間維持費は350ドルほどです」クルマ維持費は所得税控除の対象にも|1972年式 ダットサン 1200|ニッポン旧車の楽しみ方 第39回

自走でトレーラーに乗れるようになったら次の修理へ。引きずっていたブレーキの修理、マフラーの付け替え、さらにこの段階では前輪のスタッドボルトも1本欠損していた

       
トレーラーに載ってやってきたダットサン

男の趣味は、突然始まることもある。ずっと旧車を手に入れたいと思っていたクルマ好きが、売りに出されている意中のクルマを突然発見した時、一瞬血が逆流するような感覚に襲われ、あっという間に興奮状態に陥るはずだ。ご主人に「その瞬間」が訪れたことで、予想していなかった緑色のダットサンとの生活が始まった奥さまの話をお届けする。

【1972年式 ダットサン 1200 Vol.3】

【2】から続く

 「クルマ趣味に使うお金は年間いくら、というように事前に予算を決めておくのがいいと思うんです」
 会計事務所に勤務しているオーナーの奥さま。必要なお金は使ってもいいと言うが、その管理には厳しい。

「ダットサンの年間維持費は350ドルほどです。毎年更新の登録料が約100ドル。更新はオンラインでできて登録料は毎年少しずつ安くなっていきます。それから自動車保険が248ドル。これに、排ガス検査が必要なクルマなら2年に1度50ドルくらいかかります。駐車場は借りていません」
 旧車は排ガス定期検査が免除される場合が多く、整備さえされていれば公的検査は受けなくてよい。日本の車検制度と比べてクルマの維持費は安く抑えられる。そのうえ、いかにも自動車社会と言えそうなのが税金。

「アメリカでは会社員でも誰でも個人で毎年確定申告をする義務があるのですが、クルマの年間登録料の一部、それとクルマ購入の際の消費税分が所得税控除の対象になり得ます。私の乗っているトヨタ・プリウスVの年間登録料のうち200ドル、買った時の消費税3280ドルが去年の所得税控除の対象になりました」
 アメリカの税制度ではクルマをある程度生活必需品とみなしているということだ。ドライバーとしてのアメリカでのクルマ生活はどうだろう。

「初めて買ったクルマは中古のアキュラ2.2CLでした。ある日遠出をする前に主人がオイルをチェックしたら、4リットルも追加で入ったって。『ほとんどオイルが入ってなかったんだ。それでも走る。さすがホンダのエンジン』って驚いていました」

 車検制度がないため、自分で世話をしなければ誰もクルマの面倒を見てくれない。路上でのトラブルも必然的に多くなる。オーナーの奥さまが続けた。


>>【画像14枚】最初の整備を引き受けたのはオーナーの友人のリッチー・ブリーズさん。循環系、点火系を整備し自走できるようにした。主要な部品はAutozoneやO’Reillyといった自動車部品チェーン店や、ダットサン専門店で簡単に手に入る。ただし内装品はなかなか見つからないのが悩みのたね


「通勤はフリーウェイを使って45分くらいなのですが、故障や事故で路肩に止まっているクルマなんかは日常茶飯事。人身事故など大きな事故にも月に2度くらい遭遇します。事故見物渋滞もひどかったりしますが、最近は携帯で渋滞の状況や原因がリアルタイムでわかるから、イライラしている運転手も少なくなったように思います」

 片側5車線もあるようなフリーウェイが渋滞するほどの数のクルマが走っていれば、それでなくとも事故の確率も上がるのに、そのうえ整備の行き届かないクルマがいると思ったら、大方の運転手はさぞかし不安なことだろう。そんな不安があるからなのか、オーナーの奥さまはダットサンに乗ることはまれだと言う。ご主人は週に1度は通勤にダットサンを使っているそうだ。

「週末に私が2階にいて『聞きなれない声が聞こえるなあ』と思っていたら、家の前にZ32(日産300ZX)が止まっていてオーナーと主人がおしゃべりをしていたことがありました」
 クルマの周りに人が集まる。クルマを通じてみんな仲良くしてほしいと、オーナーの奥さまの家庭に受け入れられたダットサンもきっと願っていることだろう。




オーナーがずっとあこがれていたというA12型エンジンは入手した時から快調に始動し、電気系もほぼ完全に作動した。バッテリーやホースとケーブル類を新品に交換し、キャブレターはウエーバーに付け替えた。しばらく乗ったらオリジナルのオルタネーターの発電量が落ちたため、オーナー自ら交換したそうだ。





トランクの底板を跳ね上げた状態で保持するためには、左端のひもをフックに引っ掛けるだけのシンプルな構造。中にはスペアタイヤと工具が当時のまま残されていた。トランクリッドが「パタン」と軽く音を立てて閉まるのは快感。ボディが歪んでいない証拠だ。






ダットサン1200が自宅にやってきた日に片付けられてしまったというミニカーたち。リビングルームの白いキャビネットに再び飾ってあった。コレクションには日産サニークーペが加えられていた。



初出:ノスタルジックヒーロー 2017年10月号 vol.183
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1972年式 ダットサン 1200(全3記事)

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【1】【2】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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