珍車秘宝館|ホンダS600駆動系編【1】4輪独立懸架を実現した独創的なチェーンドライブ

ガレージに並んだホンダS600のツーショット。白は1964年式、赤は1965年式。車体番号10081番から市販モデルのようで、白は10150番の初期モデル

       
ホンダS600のエンジン編に続き、今回は駆動系。
独自のユニークなチェーンドライブが採用されているが、構造やメリットなどを、館長なりに解説してもらった。

【昭和ロマン珍車秘宝館|ホンダS600駆動系編 Vol.1】

 ホンダS600の精密な超高回転型エンジンに関しては、2回にわたって紹介してきた。今回は、特徴的な「チェーンドライブ」を採用した駆動系を館長にクローズアップしてもらった。
「チェーンドライブというと、バイクのような長いチェーンを使った駆動方式を想像する人が多いようですが、それはちょっと違います。基本的には、クラッチ→ミッション→プロペラシャフト→デフ→ドライブシャフト→チェーンドライブという構成です。チェーンドライブ自体は、リアサスペンションのトレーリングアームに組み込まれていて、左右のタイヤを駆動します。

 S600のチェーンドライブは、チェーンケースとトレーリングアームが一体になっているのが特徴です」とこのチェーンドライブ方式がいたくお気に入りの館長。一般的なリア駆動のクルマは、クラッチをつなぐとリアが沈み込むが、S600はお尻がピョコンと跳ね上がるという……。館長が今どきのショックに交換したところ、その症状も出なくなったそうだ。

「チェーンドライブにした理由ですが、スペアタイヤを入れるスペースを確保するために生み出された機構だということです。トランクにスペアタイヤを入れるためには、デフの位置を前側に置くしかなく、そこからドライブシャフトを延ばすと、リアタイヤの位置が前すぎになる。そこで、チェーンドライブを組み込むことで、リアタイヤの位置を後方の正しい位置に持っていくことができます。これがS800の後期になると、オーソドックスなコイルスプリングと4リンクにパナールロッドのリジッドアクスル(シャフトドライブ)になり、スペアタイヤはつり下げる方式になるんです」と館長。S800の前期はまだチェーンドライブだが、後期にはリジッドアクスルが採用され、スペアタイヤはトランクの下につり下げられる仕様になる。どうやらそれが不格好で、好みではないとか。

>>【画像10枚】 3段階で減速するため、デフのギアはコンパクトなものを使える。デフがフレームに固定されているのも特徴




4輪独立懸架を実現した独創的なチェーンドライブ





ミッション、デフ(減速比3.15)、チェーンドライブ(減速比1.87)の3カ所で減速し、タイヤに伝えるトルクを増大。最終減速比は5.89。







白の1964年式は、まだ大型のプレス機がなく、インナーフェンダーを小さなパネルを手作業でガス溶接していたため、溶接跡が残っている。赤の1965年式は、大型プレスによる高精度なパネルになっている。


【2】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年10月号 vol.183
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

昭和ロマン珍車秘宝館|ホンダS600駆動系編(全2記事)

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photo & text : 珍車秘宝館 館長

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