メンバーの上に乗っているだけで固定してなかった5速ミッション・・・自分の手でアップグレード|1974年式 トヨタ ハイラックス Vol.5

2代目ハイラックス初期型の特徴はボンネット上に置かれたエンブレムと、ヘッドライトから独立しているグリルの形状だ。北米仕様ではグリルのフレームがボディと同色に塗装されていたらしい。サイドミラーは後付けのものに交換されていたとシューベルトさんは説明。「ミラーはキャンパーをつけたオーナーが交換したんだろうけど、あんまり好きじゃない」と付け加えた。

       
アメリカの庶民にとって、ピックアップトラックを所有することは、ひとつの自慢のネタでもある。日本の商用車感覚とは別の価値が存在している。ニッポン旧車とのかかわりを持っていたオーナーが、とあるきっかけと妻のひとことで緑色のトヨタ・ハイラックスと出合った。プロメカニックの経験を生かしてレストアを開始。実際に使えるトラックに仕上げたのだった。

【1974年式 トヨタ ハイラックス Vol.5】

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 手に入れたハイラックスの状態は決して良くはなく、最初は苦労が続いたというシューベルトさん。
「5速ミッションに載せ替えてあったけど、ひどかった。クロスメンバーの上に乗っているだけで固定してなかったんだから。オリジナルの18R‐C型エンジンもピストンリングとバルブガイドが抜けていたから、どうせならと思って22R型を載せることにした」
 まずは走るようにして、それからはクルマを使いながら徐々にアップグレードを続けた。目標は「実際に使えるトラック」。

 パーツ探しにまつわるこんな楽しいエピソードもあった。現在はIT系会社で顧客のインフラ更新のサービスセールスを受け持つシューベルトさん。ハイラックス入手後にアンドレアさんとタイのプーケット島へ旅行に出かけた。タイはゴム製品で有名な国。ハイラックスに必要な部品を探そうと考えついた2人は、現地で1日時間を割いて首都のバンコクへと飛んだ。

「飛行場に降りたらタクシーに乗って、運転手に携帯でハイラックスの写真を見せた。うまいこと僕の意図を理解してくれた運転手は旧車パーツ店が並ぶ場所まで連れて行ってくれた。その街を1時間も歩き回れば適当な店も見つかるでしょ。そしたら今度は紙に欲しいパーツの絵を描いて、店の人に説明した。するとそのお店の人はどこかへ電話をしたんだ。それから2時間くらいかな。スクーターがどこからともなく次々と現れて、ガスケットとかウェザーストリップとかをみんなわざわざ持ってきてくれたんだよ。そりゃもう、ファンタスティック!」


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 こうして仕上げたハイラックスは細部もしっかりレストアされていながら、塗装表面などの外観には、自然にやつれた感じも残してある。もちろんトラックとしての実用性もバッチリ。
「家具とかバイクとか、大きな荷物もしっかりつめるようにした。しょっちゅう雑用に使ったり、DIYで家を直す材木を買ってきたり、家族の自転車を全部載せてサイクリングへ行ったり。人に貸すのだって平気」
 それがコイツのいいところ、と自慢した。風合いのいい塗装を磨かないで、とアンドレアさんも言うそうだ。


「510でデートしたおかげで旧車に慣れたんだと思います。ベンチシートに家族で座るのも好きで、子供たちが小さい頃は家族4人で乗ったこともあった。今はもう無理だけど」
 家族みんなで楽しめる実用トラック。ハイラックス自身もきっと本望だと思っているのではないだろうか。



フューエルリッドがなく、キャップにキーがつく形状の給油口。オリジナルのキャップのはずだったが、ドアやイグニッションとはキーが異なっていた。キーは失われていたので新たに作り直したとのこと。





シューベルトさんが多用している荷台。表面にサビは見えるが状態はかなり良好。「横のパネルは1枚ものなので、内側から凹ませてしまう可能性がある」と、積載時には相当の注意を払っていると言った。ゲート部分は2枚貼り合わせになっていたが、内張は後付されたものらしい。板強化のための波の間隔がフロアと異なっているのがわかる。最大積載量は1トン。


初出:ノスタルジックヒーロー 2017年6月号 vol.181
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1974年式 トヨタ ハイラックス(全5記事)

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text : Rino Creative/リノクリエイティブ photo : ISAO YATSUI/谷井 功

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