アメリカに渡ることはなかったツインカム前提のGTV
1970年12月に日本でデビューしたトヨタ・セリカは、グレードや外装や内装の仕様を自分で選択できる「フルチョイスシステム」を初めて採用。スペシャルティーカーという言葉を広めた画期的なクルマだった。北米へも輸出されたが、DOHCエンジン搭載モデルの設定はなかった。今回の取材車両のオーナーは、セリカ+DOHCエンジンの組み合わせにあこがれて、自分が考え抜いたこだわりの仕様でその1台を再現したのだった。
【 ニッポン旧車の楽しみ方 第38回|1974年式 トヨタ セリカ Vol.2】
【1】から続く 「日本初のスペシャルティーカー」とトヨタ自身が呼んだセリカ。その生い立ちを思い出すためにトヨタ車種の変遷を振り返ろう。
トヨタの伝統的車名といえば1950年代に登場したクラウンとコロナだ。クルマは公用車や商売用だった時代が変わり、マイカーの所有がグッと現実味を帯びる60年代に入るとパブリカ(1961年)とカローラ(1966年)が登場。後に加わったコロナマークⅡ(68年)がサブネームを使ったのは、車名の増え過ぎでユーザーが混乱しないよう位置付けをわかりやすくする意図があった。バンやピックアップなどの商用車も、クラウン以来乗用車と同車名を使い続けることで車格を明確にしていた。
60年代後半にはスポーツカーも存在したがどの車名も1代限りで絶えた。その隙を縫うかのように1969年には日産からツインカムエンジン搭載のフェアレディZ432とスカイラインGT‐Rが放たれた。高性能エンジン市販車の登場に対し、スポーツカーの途絶えたトヨタは新たにデビューさせたスペシャルティーカー、セリカで受けて立つ形となった。
>>【画像13枚】給油に立ち寄ったガソリンスタンドで今どきのクルマに交じると際立ったセリカの車体の小ささなど。ガソリンの滴がたれないようにと、フランシスコさんは給油直後にノズルに手を添えていた スペシャルティーカーというジャンルを米メーカーの製造サイドでは「既存のセダンプラットフォームを使い、独立した車名と外観と持つ」と認識していたがトヨタはそれを額面通りに受けず、新規プラットフォームを導入し新型セダンを別車名(カリーナ)で設定する、と解釈したことが斬新だ。従来通りカリーナに乗用車とバンを受け持たせたことで独立車種となったセリカには、トヨタのスポーツカーの流れが息づいていたことが見えてくる。純粋なスポーツカーでは時の日本では実用性に欠けすぎる。かといって一家に1台のマイカーとも違う、パーソナルユースという提案が「スペシャルティー」という言葉に込められていたのだった。
セリカが国内レースで勝利を重ね、国際ラリーで入賞を果たした1972年にGTVは登場した。残念なことに時代は間もなくオイルショックを迎える。環境保護に向かう時代にのみ込まれそうになりながら、矢継ぎ早の排ガス規制にせき立てられながらもセリカは7年間の長いモデルライフを全うした。
そんな高性能志向だったセリカも北米市場輸出では状況が異なった。アメリカでは大きめの排気量が好まれることは日本メーカーにとって共通の認識だったが、OHVばかりを扱う市中のメカニックにはツインカムエンジンは複雑すぎて手に余る、といううわさも伝わっていたに違いない。アフターケアの不備を憂慮したトヨタはツインカムエンジンの設定をためらったのではないか。1971年に初めてアメリカに上陸したセリカは、STグレードで水冷直列4気筒SOHC、1.9Lの8R型を搭載。翌1972年には2Lの18R型、1975年には2.2Lの20R型まで進化し、GT(1974年)も設定されたもののエンジンはSTと同じだった。1.6Lの2T系エンジンは一切使われなかったため、ツインカム前提のGTVはついにアメリカに渡ることはなかったのである。
フロアももちろん、新車そのものの美観。後輪の懸架はトヨタが積極的に採用したというラテラルロッド付き4リンク方式。独立懸架とリジッドアクスルの長所を両立するに成功した、とされた。超偏平高速ラジアルといわれた標準タイヤ185/70-HR13にならい、フランシスコさんの選んだサイズは185/60R14だ。
まさしく新車そのもののエンジンルーム。バッテリーまで含め全て日本製部品を使ったという。「もとの車体形式がRA21なので、2T-G型ではなく18R-G型への換装が適切だと考えました」とフランシスコさん。燃料供給にはSKレーシングツインキャブを使用した。
【3】に続く初出:ノスタルジックヒーロー 2017年8月号 Vol.182
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
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