盲目のGT-Rオーナー【1】GT-RとS20型エンジンのサウンドが自分を勇気づけてくれる|1971年式 日産 スカイランHT 2000 GT-R vol.1

オーナーのWさんは、運転席に座ってS20型エンジンを目覚めさせ、サウンドと匂い、振動を感じる。それだけでも購入した価値はあるという

       
【ハコスカとケンメリ|1971年式 日産 スカイラインHT 2000 GT-R Vol.1】

KPGC10スカイライン HT 2000 GT-R。通称ハコスカ ハードトップ GT-R。
誕生から50年以上たった今なお色あせることなく、日本の自動車史上に残る傑作として評価されている。

その背景として、レーシングを意味する「R」を名乗るだけあって、レースでの活躍、そして専用に開発されたパーツの数々を忘れてはならない。
特にリアのホイールハウスを拡大したオーバーフェンダーやトランクのリアスポイラー、100Lの燃料タンクなど、市販車として特別な存在のあかしだ。
そして、搭載されたS20型エンジンが、GT-Rの名声をさらに高めていた。

【画像20枚】GT-Rを象徴するフロントのエンブレムは、HTへのマイナーチェンジの際に、「GT-R」の文字だけのデザインに変更された。メッキパーツが美しく輝き、ヤレ感が一切ないすばらしいコンディションに仕上げられている。前後にボディ同色のオーバーフェンダーやチンスポ、リアスポイラーを装着して、スポーツ性がより高められている

2L直列6気筒DOHC24バルブから繰り出されるパワーとトルクは、160ps/7000rpm、18.0kg-m/5600rpm。
当時、1気筒あたり4バルブのエンジンはレーシングユニットにも珍しく、市販車にはなかった。それを実現したS20型は、日本を代表するエンジンといってもいい。

そんなGT-Rに魅せられたオーナーは数多くいるが、今回紹介するオーナーは、過去に例を見ない人物だ。なぜなら、病気によって失明してしまい、しかも、WさんがGT-Rを手にしたのは失明後のことだ。
運転ができないのに、どうして? そんなだれもが抱く質問に、Wさんは明確に答えてくれた。


>> 純正ではオーバーフェンダーはリアのみに装着され、半ツヤのブラック塗装となる。この個体はオーナーの好みで、フロントにも装着してボディ同色に塗装。装着部分にはトリムゴムを挟んでいる。


「25年ほど前に目の病気を患ってしまい、10年くらい前には完全に失明してしまいました。視力を失ってしまうと視覚以外の音、匂い、風などを強く意識するようになるんです。そんな時に偶然、GT-RのS20型エンジンの音を聞いて、『ああ、この音が最高だ』と感じたんです。全盲になってからまだ日が浅かったこともあり、そのころの私は自分の身の上をそのまま受け入れることができず、かなり落ち込んでいました。ブラインドゴルフをしても、結局はだれかの手を借りないと何もできない歯がゆさがありました。そんな時に聞いたS20型エンジンの独特なサウンドは、ハコスカに乗っていた若い日の自分を思い出させてくれたんです。『S20型エンジン、そしてGT-Rは、自分を勇気づけてくれる』。そう思って、今から9年前に迷うことなくGT-Rを購入しました」とWさんは語ってくれた。

【2に続く】


>> ホイールはRSワタナベのマグネシウム製8スポークで、フロント15×8J、リア15×9J。タイヤはポテンザで、フロントはRE71-RSの205/50R15、リアはRE-01の225/50R15を装着。ブレーキはフロントをブレンボ製キャリパー+φ280mmローター。リアはS30Z用アルフィンドラムを赤く塗って装着する。


>> トランクに装着されたリアウイングは、オプション設定されていたもの。レースで勝つためのクルマの設定上、本来、レース用に開発されたものだ。


【すべての画像を見る】

【2】に続く
1971年式 日産 スカイラインHT 2000GTーR|ハコスカとケンメリ(全3記事)
初出:ノスタルジックヒーロー 2021年2月号 Vol.203
       (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
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text : Akio Sato/佐藤昭夫 photo : Motosuke Fujii(SALUTE)/藤井元輔(サルーテ)

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