トヨタがル・マンを2連覇! がしかし、すべて満足できる結果ではないレースでもあった|2019 ル・マン24時間レース【1】

チェッカードライバー中嶋一貴が操り、チームメイトのセバスチャン・ブエミとフェルナンド・アロンソを乗せてピットロードを逆走、表彰台に向かう優勝車のTS050⑧号車。しかし、今年の中嶋は素直に喜べない心境だった

       
2018年のル・マンに続き、トヨタが2019年のル・マンも制覇した。かつては挑戦すること自体がはるかな「夢」だったル・マンで優勝、しかも2連覇するほどまでに実力を伸ばした日本メーカー。今年の優勝、そして1991年のマツダによる初優勝も含め、トヨタ、日産、マツダが歩んだル・マンの「夢」を振り返ってみることにした

【トヨタ、ル・マンを2連覇! 日本車挑戦の50年を振り返る vol.1】

 2018年は、果たしてトヨタは優勝できるだろうか、という見方が大多数だった。実力的に疑問があったわけではなく、むしろ戦闘力がナンバー1であることはだれもが認めるところだったが、問題なく24時間レースのチェッカーを受けられるかどうか、が争点となっていたのである。

 ル・マンに関心をお持ちの方ならご存じだろうが、HVプロト規定となった2012年以来、常にトヨタはトップランナーの位置につけながら、ドラマでもこんな筋書きはないだろうと思える突発事態に見舞われ続け、あと一歩で優勝を逃すレースが続いていた。

 2018年、多くの人が抱いた疑問は、またハプニングが起きるのだろうか、という種類のものだった。そして、トヨタは、愚直と言えるほどの走り込みを繰り返し、信頼性を上げてル・マンに臨む実直な開発手段を実行。

 その効果が実を結び、予期したとおりに念願のル・マンを初制覇。ライバルであるポルシェ、アウディが去った後での優勝だっただけに、敵がいなければ勝って当然、という否定的な意見もあったが、これは多分に表層的な見方であり、競合者の有無にかわらず、昨年のレース運び、内容なら優勝は間違いないと断言できる。

 今年の場合は、昨年と逆の見方になった。トヨタの優勝は間違いなし、勝つのはどちらの車両なのか、が戦前の争点だった。展開によってチームオーダーはあるのか、あるいはそれ以前の問題として、⑧号車は昨年の優勝クルー、現在はWECドライバータイトルのポイントリーダーということで、優勝は経験のない⑦号車、⑧号車は2位に入ってドライバータイトルを獲得する、というシナリオすら推測されていた。実際のところ、邪推とは言えないほど説得力があった。

 こうした衆目のなかで、レースをリードしたのはマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ‐マリア・ロペスの⑦号車だった。いかんせん、走り始めると⑧号車より速い。予選も⑧号車にコンマ5秒の差をつけていた。

 実際のところは、レースが24時間と長丁場のこともあり、わずかのスピード差がどれほど戦局に影響を与えるかは不明だったが、結果的に終始レースをリードしたのは⑦号車だった。

 とは言っても、両車に決定的なトラブルはなく、ギャップも同ラップで2分差が最大という状態だった。逆に言えば、わずか2分だが、2番手⑧号車としては決定的に埋めようのない2分とも言える状況だった。

 しかし、チェッカーまであと1時間という段階で、予想外のトラブルが⑦号車を見舞った。タイヤセンサーが右前輪の異常を検知。1度はピットインしてタイヤを交換したものの、モニターは依然として異常があると警告。再度ピットインして4輪すべてを交換したが、異常警告は相変わらず。

 結局、タイヤ自体には何の問題もなく、センサー配線の不良が原因だったことが事後に判明。水曜の予選終了後、モノコック交換をした際の作業に原因があったと報告された。

 ル・マン2連覇は、文句のない戦績だが、本命が後退したのは想定外の事態。トヨタの真価は、来年のル・マンで問われるかたちになった。

【画像35枚】2019年に優勝したトヨタのチームメイトに、現在も現役F1ドライバーとして活躍中のフェルナンド・アロンソも写っている!


>>2018年に続き2年連続でトップチェッカーを受けるトヨタTS050⑧号車。日本人ファンにとって、日本車がル・マンを連覇するとは思いもよらない出来事だった。



>>最後の燃料補給を終えてレースに復帰するTS050⑦号車。ボディサイドのポジション灯は2位。2019年も最後の1時間でどんでん返しがあった。



>>セフティカーの導入で⑦号車と⑧号車がポジションを入れ替える場面もあった・⑧号車を前に夕暮れのフォードシケインを行く2台のTS050。



>>チェッカードライバー中嶋一貴が操り、チームメイトのセバスチャン・ブエミとフェルナンド・アロンソを乗せてピットロードを逆走、表彰台に向かう優勝者のTS1050⑧号車。


【2】へ続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2019年10月号 Vol.195

(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

2019年 ル・マン24時間レース(全4記事)

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