多気筒化デスビにおいて、ミスファイアリングを防止するための端子距離を確保する、ルーカス&マレリ、各々の工夫【2】昭和ロマン珍車秘宝館 第12回 -

ルーカス製デスビのアッセンブリー。直径140mmもあるため、かなり大きくなってしまう。

       
【昭和ロマン珍車秘宝館 第12回 LUCAS vs MAGNETI MARELLI、V型12気筒エンジン用デスビを比較  Vol.2】

V型12気筒エンジンを搭載して一世を風靡した市販車「ダイムラー ダブルシックス」と
「フェラーリ512BB」。この2車のデストリビューターの機構に、興味深い違いがある!

【1】から続く

「外径が大きい方がジャガーのV型12気筒に装着されていたルーカス製。小さい方がイタリアのフェラーリに採用されていた12気筒用のマグネッティマレリ製です。外径はルーカスが約140mmで、マレリ製が110mm。ちなみに日産のL型6気筒用は85mmです。

 ルーカス製は一般的なデスビローターで、高電圧を送る端子は片側だけ。デスビキャップの裏側は、12気筒を均等に分配する構造で、気筒数が増えたために外径が大きくなっています。この12気筒に均等に分配する部分は、デスビキャップの外径を小さくすると、隣同士の端子の距離が近くなります。距離が近いと、ローターが回転して高電圧をキャップの各端子に分配する過程で、隣の端子に高電圧が飛び、ミスファイアの危険性が高くなります。

 この時代のフェラーリに採用されていたのは、当時は画期的なマレリ製のCDI点火システムで、2次電圧がとても高いのです。電圧が高いほど周辺の端子に高電圧が飛び、ミスファイア現象が起きるので、デスビキャップ内の端子距離は大きくする必要があります。ところが、マレリ製は、見ての通り2階建て構造です!

 これは画期的で、端子部分は隣と距離があるので、ミスファイアを防止できる構造です。しかも、点火順序は上下上下なので、ミスファイアは起こりにくい。素晴らしいアイデアです」

 と、スイッチが入り、一気に解説する館長。みなさんこのマニアックな話題は理解できましたか!?


>> 【画像14枚】2階建て構造と平屋構造、2種類のデスビの詳細な解説



>> (左)ルーカス製デスビキャップ裏側。12気筒を均等に分配している構造。これはL型などの一般的なデスビキャップと同じ構造で、単純に気筒数が増えたために、外径が大きくならざるを得ない形状。

(右)フェラーリに採用されたマレリー製のキャップの裏側は、端子が2階建て構造になっている。





>> (左)ルーカス製のデスビローターは、一般的な片側だけに端子があるタイプ。高電圧を送るため、かなり大きく、先端も太い。

(右)マグネッティマレリ製ローターは、端子が左右に、しかも高低差もある。また、端子の幅が広いとミスファイアがおきるため、極限まで狭くしている。そのため、点火信号のピックアップ部分の精度がとても高くないと成り立たないシステムだ。





>> (左ルーカス製)デスビキャップにローターを組み込んだ状態。中央の穴には、エンジンから伸びるシャフトが装着され、そのシャフトによってローターが回る仕組みだ。回転はクランクシャフトの回転と同期している。

(右マグネッティマレリ製)キャップ内にローターをセットした状態。右上の接点に高電圧が飛び、ローターが回転すると左下の接点に飛ぶ。上下のキャップに交互に飛んで12気筒に確実に分配できるようになっている。



初出:ノスタルジックヒーロー 2018年8月号 Vol.188
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

昭和ロマン珍車秘宝館 第12回(全2記事)

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【1】から続く

photo & text:珍車秘宝館 館長

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