ロータス・ヨーロッパとの出合い、そして広がる自動車漫画の構想|スペシャルインタビュー 池沢早人師【2】サーキットの狼世代へ

スーパーカーを描きたかったのではなくモータースポーツを通して成長していくドライバー像を描きたかったという池沢さん。「サーキットの狼」はクルマではなく、人がテーマであることを意味して付けられたタイトルだ。

       
「サーキットの狼」企画のまとめとして、作者である池沢早人師(連載当時の表記は池沢さとし)さんにお話をうかがうことにした。自動車を題材としたコミックがなかった時代になぜこうした内容構成を考えついたのか、その真意を知るためだが、改めてその成り立ちをうかがってみると、読者がとらえていた「サーキットの狼」像とは異なる一面を見ることができ、新鮮な驚きを受けてしまった。

【 スペシャルインタビュー 池沢早人師 Vol.2】

【1】から続く

 仲間といろいろなことを話しているうちに、走ることに対して興味を持ち始めたという池沢さん。そんな時期に出合ったのが次の愛車、トヨタ200 0GTだった。

「新井薬師(東京都中野区)の商店街を歩いていたら、人込みに注意しながら徐行で向かってくるクルマがあったんです。低くてとてもきれいな形をしていましてね、なんだこのクルマは、初めて見るぞ、こんな具合です。そして行き過ぎるリアビューを見たら、トヨタのエンブレムが付いていた。え、トヨタ? 面食らいましたね」
 残念ながら、池沢さんとトヨタ20 00GTが出合ったタイミングは、すでに2000GTの生産・販売が終了した後のことだった。それでも「新車より高いグリーンメタリックの中古を探して手に入れました」というのだから、その思いは本物だった。

 それにしてもおもしろいのは、この時期になっても、まだクルマに関する知識や情報を自分の側から取りに行こうとしなかったことだという。

「ふつうなら、クルマに対する興味が旺盛で、自動車雑誌を買ったりして情報を集めますよね。でも、ボクの場合は、トヨタ2000GTを手に入れた段階でも自分のクルマにしか興味がなく、他のクルマについてはほとんど無関心でした」
 そして、ロータス・ヨーロッパも新井薬師で見かけたことが購入のきっかけだったというから面白い。
「ただでさえ低いロータス・ヨーロッパをさらに低くし、ノーズにリップスポイラー、リアにハイウイングを装備して、赤のボディに白のストライプを入れていた。なんでこんなにカッコいいんだろう、もうこの1点に尽きましたね。ただただ、カッコよかった」

>>【画像19枚】1975〜1979年に連載された「サーキットの狼」など

 池沢さんの大きな特徴は、知識として、たとえば雑誌などから情報を得てある特定のモデルを好きになるのではなく、偶然街中で見かけたクルマから衝撃を受け、それがきっかけとなりそのクルマにのめり込んでいったことである。しかも、その衝撃の度合いは、新たに知るたびに大きくなっていたという。Zでさえ相当なものだったというから、ロータス・ヨーロッパの時には、想像を絶する衝撃だったことは想像に難くない。


「麻布飯倉にロータスの代理店、アトランティック商事のショールームがありまして、時間ができるとそこへ行っていました。欲しいんですけど新車は350万円と高くてとても手が出せない。見るだけです。そんな折、中古はどうかと思い、試乗してみることになりました。たしか、200万円前後の車両だったと思います。ヨーロッパに乗れることがうれしくて、ウキウキしていましたね。ところがその車両は、ミッションの具合が悪く、甲州街道の交差点のど真ん中でギアが入らなくなった。アセりましたよ。中古を買ってはダメだと思い、結局、かなり無理をしましたが新車を買いました」

 ロータス・ヨーロッパに乗り換えたことで、クルマ仲間、走りの仲間も変わってきた。実は、こうした仲間の存在が、サーキットの狼のストーリー構成のヒントにもなったという。
「ポルシェ911カレラRSに乗っている仲間がいまして。その人がディノと公道レースをやって負けてしまったわけです。それが悔しくて、エンジンをレース仕様、RSRのものに積み替えてしまった。もうお分かりかと思いますが、彼が早瀬佐近のモデルです」

 以後、池沢さんが乗り継いできた車両の数は、70台とも80台ともなるようだが、振り返ればロータス・ヨーロッパは大きな分岐点となっていた。


>>流石島レースの終盤、飛鳥ミノルのミウラと壮絶なバトルを繰り広げる風吹のディノRS。勝負の決め手は風吹の繰り出した「幻の多角形コーナリング」。まさに手に汗握るシーンだった。このあとトップを走る早瀬のポルシェに追いつき、勝利する。




>> 本誌読者プレゼント用に風吹裕矢の顔を描き、ご自身のサインを入れる池沢さん。さすがにプロ、手際よくあっという間に書き上げてくださった。実は池沢さん、プロの漫画家を志す段階で、男でありながら少女漫画も描ける漫画家になりたいと努力していたという。池沢作品の登場人物に繊細な線の印象を受けるのはこうしたためかもしれない。プレゼントは本誌178ページ参照。



【3】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年12月号 Vol.184
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

スペシャルインタビュー 池沢早人師(全3記事)

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【1】から続く

©︎池沢早人師/animedia.com text:KEISHI WATANABE/渡辺圭史 photo:ISAO YATSUI/谷井 功

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