そしてマキシマ、アルティマ、セントラへ。ダットサン、その入門モデルの系譜【2】過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210

カリフォルニア州バークレー市にあるアドラーさんの実家の前は、クルマ1台がギリギリ通れる路地で、奥に入ると開けた駐車場になっている。40年前の写真を撮影したのは母親のジョージーさん(右から2番目)。「私はエレガントな緑のほうが好き。とても清潔で新車のようだわ」と好みを語った。ジェイデン君(左端)はB210と一緒で始終ニコニコだった。

       
複数台の旧車を所有するオーナーには、いくつかの傾向があるようだ。ある人は自分が好きな異なった車種を並べる。別の人は自分が好きな1車種にこだわって、歴代の型式やグレード違いを集めて楽しむ。そしてもう一つは同じ車種、同じグレードを何台も手に入れる人。それぞれのこだわりがオーナーの趣味を表しているのだが、今回紹介するオーナーは、子供の頃の思い出のクルマをずっと探し求めて、ようやく自分の元に引き寄せたのだった。

【アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方 過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210 Vol.2】

【1】から続く

 北米市場での日産車の話を。マキシマ、アルティマ、セントラと聞いてピンとくるなら、かなりの日産車通と言えるだろう。これらは北米市場で日産の新型乗用車の主軸をなす3車種の名前である。

 1960年代終盤のアメリカで、240Zと510をもってしてダットサンは自動車業界の強力な新興勢力となった。以来Zはスポーツカーとしてのコンセプトがぶれることなく現在の370Zまで続いているのは承知の通り。対する510から展開した一連の乗用車は、オイルショックを追い風にしつつもその後の揺り返しを受け、複雑な歩みを強いられることとなった。

 日本で昭和48年排ガス規制が制定された1973年はモデルチェンジの年だった。B110系がB210に変わるのに合わせ、510を継いだ610系「ダットサン610」は大きくなった車体に排ガス対策の施されたエンジンが搭載され、510特有だったシャープな運転感覚が失われた。これを挽回するために1974年投入されたのが610に似せたグリルの「710」。ここで乗用車が計3車種構成となった。世界各地で高く評価された710系も510を彷彿とさせるには至らず。アメリカは510の栄光を忘れることができなかった。

 これらは1977年から1978年にかけて一斉にモデルチェンジを迎える。これはS130系Zへの世代交代と同期している。トヨタ・セリカもこの時期にモデルチェンジを受けた。両社とも排ガス対策車種の準備ができたという感じだ。


>> 【画像14枚】リアハッチに取り付けられたルーバーとサイドウインドーに貼られた減光フィルムのために暗く、洞窟のような雰囲気のある後部座席など。「すでに持っていたルーバーを、すぐに自分で取り付けました。カッコいいでしょ」とアドラーさん

 610が810系へ移行するにあたり、「810」と名乗って代替わりを明確にした。トヨタ・スープラを意識した直列6気筒エンジン限定車種で「240Z譲りのエンジン」と宣伝された。1980年には910系へ移行するも名前を「810マキシマ」としたことは消費者に混乱を生んだ。1984年にFFのU11系になるにあたって「マキシマ」とし、V6エンジンになって現在まで続く。

 710を継いだのはA10系(スタンザ)でこれを「510」と命名。往年の名を復活させた。1982年T11系になると「スタンザ」と改名、FF車となった。U13系から「スタンザアルティマ」となり、その後はV6エンジンを搭載して「アルティマ」と名乗り現在に至っている。このような複雑な系譜を生んだ510に対し、B110系から始まったエントリーモデル「ダットサン1200」は1973年に「B210」となり、コストパフォーマンスを生かした小型車としてのコンセプトを保ち続けた。1978年B310系へ移るにあたり、後継であることを明確にするために「210」とする。1982年E型エンジンでFFのB11系に移行した際に「セントラ」と改名。これが小型車として代を改めながら現在まで続いている。B110系に始まったサニーの北米バージョンは名前こそ変化したものの、Zと並んで純粋な系譜の老舗車種ということになるのだ。





きれいに保たれていたボディ。わずかなホコリすらもアドラーさんは嫌う。磨き抜かれたためなのか、オリジナルの塗装がすれて下地が見え始めていた。






赤い個体には純正のアルミホイールが備わっていた。リムに刻まれた「NISSAN」の文字と、「D」のセンターキャップがその証拠。






【3】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年12月号 Vol.184
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

過去と未来をつなぐ、2台のダットサンB210(全3記事)

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【1】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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