運転がダントツに面白い 【3】「ボルトのヘッドが一般用途のものよりも大きく、文字が打ってあるのが正しいS800のパーツです」|ニッポン旧車の楽しみ方 第32回|HONDA車の真骨頂、運転の楽しさに魅せられる

トップアップとダウンではこんなにも見た目の印象が異なる。トップアップだと小さい車体は路上であまり目立たず、さしずめ「小さなBMWのコンバーチブル」とでもいえそうな雰囲気だった。ところがトップを下ろしたとたん、なぜかその車体の小ささが際立ち、注目度は抜群。ちなみにSシリーズが発売された当時の日本では、「赤いクルマは消防自動車と見間違えるからいけない」なんて、今となれば冗談としか思えない議論もあったようだ。

       
1962年10月に東京・晴海で開催された第9回全日本自動車ショー。そのホンダブースに2台のオープンカーが展示された。1台はホンダスポーツ360、そしてもう1台がスポーツ500だった。この時をきっかけに、ホンダはライトウェイト・スポーツカーが得意なメーカーとして、今なおそのヒストリーが続いている。ふとしたきっかけでホンダS800を手に入れたオーナーが、その魅力にとりつかれていくストーリーをお届けする。

【 HONDA車の真骨頂、運転の楽しさに魅せられる Vol.3】


 【2】から続く

 不動産業を営むというクヌードセンさんは、イタリアや日本のレアなクラシックカーへの思い入れが強い。

「それでもあのころは、特にS800を探していたわけじゃなかった。知り合いが手放すと言うので、引き取ることにした。それだけだったんです」

 ところが運転してみると、すぐにその走りのとりこになった。考え直して全分解のレストアを決心し、いざ取りかかってみたものの、なんと今日まで丸々6年もかかってしまったという顛末。
「せっかくやるのだからMk1風に仕上げたいと思って。それにMk2のキャブは排ガス対策がしてあったのか、走りが良くなかった。左ハンドルのS800はスロットルケーブルが右ハンドルとは逆位置にあるから、左ハンドル車につけられるMk1のキャブレターを手に入れるのに苦労しました」

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 日本国内専用モデルだったS800の前期型はアメリカではMk1(マークワン)と呼ばれている。Mk2(マークツー)と呼ばれるマイナーチェンジ後の後期型は輸出仕様も用意され、さらに輸出先に応じて仕様に細かな差異があった。対アメリカの安全基準対応が盛り込まれたにもかかわらず、結果的にはアメリカには正規輸出されずじまいとなったのだが、それには、アメリカにまだホンダ4輪車の販売ネットワークが十分に確立できていなかったことに一因があったようである。

 クラシックカーは、きれいな状態に仕上げてあげることをいつも目標にしているというクヌードセンさんが言う。

「他にレストア中のクルマも持っていますが、今はこのS800だけがコンクールにも出せるレベルの状態です」
 世界的に希少なクルマをレストアしたうえで手放す際には、かけた金額相当の値がつくこともあるものの、お金をかけてクルマを仕上げるのはあくまでも趣味だという。クヌードセンさんはそのクルマ遍歴におけるS800の位置づけについて言葉を添えた。

「これまでに日伊のクラッシックに限らずいろいろレストアして乗りましたが、あえて比べて言うならば、S800は何といっても運転がダントツに面白い。車体が軽いからですね」
 長い期間のレストアをようやく終えて、思い切り楽しめるコンディションになった真っ赤なS800。クヌードセンさんのカーライフに、真新しい1ページを付け加えることになった。

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ガレージにはS800用の小物パーツを1台の台車にまとめて載せて整理してあった。S800専用のボルト類を、卵のパックをそのまま廃品利用した入れ物に収納。「ボルトのヘッドが一般用途のものよりも大きく、文字が打ってあるのが正しいS800のパーツです」と強めた語気に、クヌードセンさんのレストアへのこだわりが感じられた。





クヌードセンさんの保管するS800純正パーツリストには、国別のコードが一覧表に記されていた。印刷された日付は1968年3月。ジャパンの文字はないが、オキナワの文字が見える(当時沖縄はアメリカ統治下)。U.S.A.(アメリカ)、カナダなどの国名も記載されていた。右下の冊子はS800の電気配線図で、ここにもU.S.A.と書かれた配線図を示すページがあった。S800はアメリカには正規輸出はされなかったのだが、少なくとも後期型はアメリカ仕様が準備されたのは確か



ノスタルジックヒーロー 2016年8月号 Vol.176
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

HONDA車の真骨頂、運転の楽しさに魅せられる(全3記事)

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 【1】【2】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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