このガレージでイチからすべて組み立てたカローラは、照明のあたるSEMAのステージへ|1973年式 トヨタ カローラ Vol.3

自宅ガレージでは、カローラはトレーラーに載せられたまま収まっていた。クルマに使うスペースはガレージの半分だけ。残りは家族用スペースだ。

       
カーショーなどに展示するクルマの場合、その仕上がりの程度を表す言葉として「コンクール・コンディション」という表現がよく使われる。しかしこのコンディションに基準があるわけでなく、だれもが認めればOKという、あいまいなものとなっている。ただし「だれにも認めてもらう」というハードルはとても高いのも事実。左の写真にあるボディがカサカサのカローラを、上のピカピカの姿によみがえらせたオーナーの物語をお届けする。

【1973年式 トヨタ カローラ Vol.3】

【2】から続く

「このカローラは、このガレージで一からすべて組み立てたんです。エンジンは専門店でオーバーホールしてもらったあと、組み立てずに部品のままここまで持ってきてもらいました。なぜかって? エンジンの中にどんな部品が入るのか、組み立てるときに一つ一つ自分の目で確認するためです」

 そんな言葉にこのカローラに対するヌグさんの徹底した姿勢が現れていた。
「数えきれないくらい内外装の調整と実験をして、たたずむ姿に自分の目が満足できるようにしてきた。機関の調子を保つために道の空いている早朝にゆっくり走らせることはあります。タイヤはグリップの低いものを履いて、はね石がボディを傷つけたりしないように気をつけながらですよ」

 細心のケアのもと、究極のショーコンディションを保ち続けるヌグさんのTE27。3年前にある転機が訪れた。

【画像12枚】トヨタ・セコイアでトレーラーを引っ張り、どこへでも出かけていく。オープンホイール用なのでクルマのドアを開けることができない。エンジンをかけるために窓から乗り込むはめになってしまったトレーラーなど

 ショーで人目を集める姿が在米パーツ業者の目に留まったのだ。プロの目にも訴えるその美しさは、業者を通じて伝えられ、12年にはエンケイから車両の使用依頼が舞い込んだ。

 エンケイのホイールを履いてラスベガスで行われたSEMAトレードショーの大舞台へあがったカローラ。

「きらびやかなスポット照明のあたるステージで、隣に並べられたサイオンFR‐Sと比べても、私のカローラはその美しさにおいて、まったく引けを取っていなかった」
 ヌグさんはそう言って目を細めた。

 その後も、江洋ラヂエーター、リスタード(カーボンボディパーツ製作)と、次々と展示会や試作品試験の依頼が日本から舞い込んだ。

 ロジスティック会社へ勤めるヌグさんは、週末がクルマと過ごす時間。イベントごとにスポンサーに応じた装いにクルマを仕立て上げる。そしてできあがった姿をガレージで眺めて過ごす。

「フロントスカートやトランクリッドも複数部品を持っていて、必要に応じて交換します。ボディのデカールもそのたびごとに変えます。1つ何かを付け替えたら、ビール片手に、何時間眺めていてもあきないんですよ」
 ヌグさんはうれしそうに笑った。

 クルマを愛でる。そんな旧車への接し方。じっとカローラを眺めながらニヤッと微笑むヌグさんの、ユニークな旧車ライフが目に浮かぶだろうか。






奥さま(左)と娘さん(中央)はパトリック・ヌグさん(右)とニコニコと話をする。「2人とも私の趣味をよく理解してくれるので、とても助かっています」。ヌグさんははっきりとした言葉を使って、家族への感謝を表した。家族の乗るクルマはみんなトヨタ車だ。




トヨタ・セコイアでトレーラーを引っ張り、どこへでも出かけていく。後ろに積んだカローラの様子などまるで心配しないかのように、カーブや道路の段差も気にかけることなくバンバン走っていた。


初出:ノスタルジックヒーロー 2015年 08月号 vol.170(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1973年式 トヨタ カローラ(全3記事)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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