「なぜマニュアル車を買うのか、わざわざその理由を説明して父親を説得しなきゃいけなかったんですよ」ドリフトから旧車生活へ|1969年式 ダットサン 510

手提げカバンからは次々と、出てくる、出てくる、書類の山。ファーストオーナーはあまり几帳面な人ではなかったようだったとオーナーは言う。というのも、「書類はいっさい残っていない」と言われたがグローブボックスを開けてみると、新車購入時からのありとあらゆる書類がそこに押し込まれていたからだ。オーナーはそれを丁寧に整理して、1枚残らずファイルに入れて保管している。「購入時のオリジナル書類から、毎年の登録証、さらには駐車場のレシートまで入っていました」と興奮して話した。

       
今回紹介するダットサン510のオーナーは、クラシック・ジャガーのプロフェッショナルメカニックである女性。以前はドリフトに魅せられて、そのエキサイティングな世界にどっぷりと浸っていたが、ある日、名も知らない古いクルマを見かけ、そのルックスにあこがれた。その後、縁があって現在の愛車と出合うのだが、この出合いがオーナーのクルマと向き合う生活にも大きな影響を与えることになったのだ。


【1969年式 ダットサン 510 Vol.2】

【1】から続く

「なぜマニュアル車を買うのか、わざわざその理由を説明して父親を説得しなきゃいけなかったんですよ。当時はドリフト競技がアメリカへ紹介されたばかりで、サーキットの時間枠も少なく、走る機会を見つけるのは容易じゃなかった。初めて走った時はめちゃくちゃでした。何をやってるんだか、自分でもよく分かっていなかった」

 それでもドリフト走行の楽しみを体感したオーナーは、お金をためながら徐々にS13(日産240SX)の改造を進めた。しかしその間に元のドリフト仲間達は徐々にドリフトをやめていった。改造したS13も公道では目立ちすぎて警察に止められるのがうっとうしくなり、オーナーも次第にドリフト競技から遠ざかっていった。

 ドリフトに夢中だったころに見かけた、名も知らない古いクルマがあった。そのルックスにあこがれた。かわいいクルマだと思った。

「それがダットサン510というクルマだとわかってからも、ただネットで見ているだけでした。高校生のうちはそんな古いクルマを買うなんて、両親が許してくれなかったから。図らずも自分がクラシックカーのメカニックになって、そこで分かったことは、旧車を探すなら細かい仕様の好みにこだわるよりも、旧車として『良い状態』であることが重要だということ。しかし、日本旧車のことは何も知らないし、どこを探していいものか、手がかりすらありませんでした」

>>【画像14枚】オーナー(左)が10年間勤めているオークランド市内のジャガーショップ「ビンテージオートサービス」。ショップオーナー(右)はクラシック英国車のレストア業界では名の通った人だ。「クラシックカーには個性やクラフトマンシップを感じる。ここで働くようになってからそれを学ぶことができて旧車をリスペクトするようになりました」というオーナーなど


 確かにそのとおりかもしれない。インターネットの発達した現在、旧車はコミュニティー内で取引される機会が圧倒的に多く、外へは出てこない。その上、日本旧車は改造されている場合も少なくない。オリジナルの状態を保つ個体はオーナーがやすやすとは手放さない。新参者がオリジナルを手に入れることはどんどん難しくなっている。



1台目のS13はエンジンが寿命となったので、手に入れた2台目にはこのように思うままに改造を行い、全塗装も施した。目立つのもやむなし、か。(写真 : オーナー提供)



【3】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2016年 6月号 Vol.175(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1969年式 ダットサン 510(全4記事)

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【1】【2】から続く

text & photo:HISASHI MASUI/増井久志

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