真っ先に実用化されたのは日産のHICAS|後輪転舵編 Vol.2|ハチマル・テクノロジー

HICASとは、ハイ・キャパシティ・アクティブリーコントロールド・サスペンションの頭文字をとったもの。

       
【ハチマル・テクノロジー:後輪転舵編 Vol.2】

まっ先に後輪操舵を実用化した日産

 まっ先に後輪操舵を実用化したのは日産だった。HICAS(ハイ・キャパシティ・アクティブリーコントロールド・サスペンション)と名付けられたシステムで、乗用車用4輪操舵システムとしては世界初の試みとなっていた。搭載車両はR31型スカイラインで1985年の登場だった。



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 日産のHICASは、その名称からも分かるように、ステアリング(転舵)装置ではなくサスペンションシステムのひとつとして考えられていた。作動はリアサスペンションのメンバーを油圧ピストン(2シリンダー)により、メンバーブッシュのたわみ量内で動かす方式で、最大0・5度の舵角を与える設定となっていた。

 サスペンションメンバーを動かすことで後輪に前輪と同じ方向の舵角を与えるシステム(同相転舵)で、旋回運動中の車両挙動を安定化させることに狙いがあった。また後輪に舵角を与えるタイミングは、前輪の転舵に対して1テンポ遅れる遅延制御が行われていた。姿勢を安定させる同相転舵のため、旋回初期に後輪舵角を与えるとヨーが減少し、初期の旋回運動が妨げられてしまうからだ。

 このシステムを正常進化させたものが1988年登場のHICASⅡ(S13シルビア)で、システムのコンパクト化(タイロッド方式による1シリンダー化)と舵角の拡大(最大1度)がその改良点となっていた。高速旋回時の姿勢をより安定化させようという狙いである。

 そして1989年、R32スカイラインで採用されたのがスーパーHICASだ。このシステムは初期のHICASシステムと比べ、一段進化したレベルで後輪操舵をとらえていた。大きな違いは、旋回初期段階に一瞬逆相転舵の動きを設けたことで、旋回初期段階でのヨーの立ち上がりを促すことを狙いとしていた。また、これに合わせ、前輪の舵角センサーによる角速度制御も採用。操舵速度をドライバーの意思と見なし、急転舵か緩転舵かで後輪舵角を制御していたのである。

まっ先に後輪操舵を実用化した日産システム、HICASなど【写真7枚】



 HICASシステムは、1993年登場のC34ローレル採用時に電動方式へと変更されている。



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NISSAN x SYSTEM

後輪操舵にまっ先に取り組んだのが日産。1985年発表のR31スカイラインにHICASシステムを搭載したのを手始めにHICASⅡ(S13シルビア、88年)、スーパーHICAS(R32スカイライン╱Z32フェアレディZ、1989年)、電動HICAS(C34ローレル、1993年)と順次発展、進化を遂げてきた。基本的には後輪にわずかの舵角を与え旋回挙動を安定させるシステムとして考えられてきたが、旋回の初期機動をよくするため一瞬の逆相転舵モードを設けた点に特徴がある。回頭性と安定挙動の両立がポイントとなる。


作動レスポンスを向上させると共に、システム自体の小型軽量化に貢献。



また、ハイポイド式のウォームギアを使うことで、力の伝達方向を1ウェイ化。路面入力によるシステム作動の不安定化要素を排除していた。


 日産HICASシステムの特徴は、旋回運動時の挙動安定化を狙いとしながら、後輪の操舵方向によるヨーコントロールを行うことで、回頭性と安定性という相反する要素を両立させたことに尽きるだろう。

Vol.3、Vol.4に続く

初出:ハチマルヒーロー 2013年2月号 Vol.020(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ハチマル・テクノロジー:後輪転舵編(全4記事)

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text : AKIHIKO OUCHI/大内明彦

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