後ろのタイヤも曲がります! 80年代には国産車に装備されていたスゴイ・メカニズム|後輪転舵編 Vol.1|ハチマル・テクノロジー

80年代は自動車テクノロジーが一気に発展を遂げた時代。

       
【ハチマル・テクノロジー:後輪転舵編 Vol.1】

80年代は自動車テクノロジーが一気に発展を遂げた時代だったが、まずまっ先に進化したのはエンジンだった。4バルブDOHCやターボシステムの普及により動力性能が飛躍的に向上した。そうなると問題になるのはエンジン性能を受け止めるシャシー系、すなわち走行装置の許容性能ということになる。よく曲がり、なおかつ安定したコーナリング性能を持たせるにはどうしたらよいか? ひとつの解答が後輪操舵システムだった。

後輪転舵の意味、実はヨー制御、挙動安定と回頭性の二律両立

 80年代の自動車メカニズムといえば、エンジンテクノロジーの急速な進歩を頭に浮かべるが、エンジン性能の進化に伴って、それに付随する領域のメカニズムも同時に進化を果たしていたのである。

 考えてみればこれは当たり前の話で、エンジンが強力になった分だけ、ボディやサスペンション、ミッション、デフ、タイヤといった走行系のメカニズムにも性能の底上げが求められた。逆の言い方をすれば、80年代はクルマのトータルパフォーマンスが劇的に引き上げられた時代でもあったのだ。

 しかし、こうした性能の引き上げは、今から振り返ってみると、ある時期を境に性能のとらえ方が変わっていたように見えるのである。「走る」、「曲がる」、「止まる」というクルマの基本運動3要素に対し、それまでは個別のメカニズム開発で対応してきた流れが、「クルマは運動する物体」という視点から、車両の全体性能で対応する方向へと技術思考が変わってきたことである。

HICASを初搭載したR31スカイラインなど【写真6枚】


R32スカイラインにはスーパーHICASが採用された。詳しくはVol.2にて


 こうしたことを気付かせるきっかけとなったメカニズムが、80年代中盤に導入された4WS(4輪操舵=後輪操舵システムの追加)だったと言えるかもしれない。

 旋回性能、いわゆるコーナリング性能の向上は、クルマの動力性能がある程度落ち着いてきた60年代中盤以降、少しずつ重要視されるようになっていた。日産が510ブルーバードで実践した4輪独立懸架(前ストラット/後セミトレーリングアームの方式は、前ダブルウイッシュボーン/後ダイアゴナルリンクのベレットなどとは明らかに時代、思想が異なる設計)は、まさにこうした考え方の表れと見てよいものだった。

 こうした走行性能、運動性能の向上に関する試みは、排ガス対策の時期にしばらく中断するが、排ガス対策が一段落した80年代初頭から再び加速。とくにエンジン性能は、ターボ過給や4バルブDOHCの相次ぐ実用化によって飛躍的に向上する。しかし、これによりシャシーメカニズムが受け持つ性能負担は急激に大きくなっていた。

 後輪にも舵角を与え旋回性能を向上させようとした4WS方式が登場したのは、ちょうどこんな時期だった。ただし、後輪に舵角を与えるメリットの解釈については、メーカーによってその意味は異なっていたようだ。

Vol.2、Vol.3、Vol.4に続く

初出:ハチマルヒーロー 2013年2月号 Vol.020(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ハチマル・テクノロジー:後輪転舵編(全4記事)

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text : AKIHIKO OUCHI/大内明彦

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