きっかけはイベントで見た510、その日のうちに探し当てた1台にオーナー父がひと言 「オヤジのクルマだ」|1971年 日産 ブルーバード 1800 SSS Vol.2

走らせている実感、手応えのあるものが自動車ではないのか、というオーナー。この視点でクルマを眺めていくと、どうしても現代のクルマは合わないという。

       
20年ぶりに再会した祖父のブルーバード。それはまったくの偶然だった。幼い頃、車庫に置かれたそのクルマの周りをペダルカーをこいで遊んだという孫が、20年の歳月を経た後に、今は亡き祖父に代わってワックスをかけ、ステアリングを握る。運命の巡り合わせというのだろうか、その確率はまさに天文学的。むしろ、目に見えない力が両者を引き合わせたような思いすらしてくる。世の中、こうしたことが現実として起こり得るようだ。

【1971年 日産 ブルーバード 1800 SSS Vol.2】

【1】から続く

 そんなオーナーが「ジイちゃん」のブルーバードに出合ったのは、2015年5月、ゴールデンウイークの時だった。

「父とお台場(東京)で開かれたクルマのイベントに行ったんです。国産、輸入車といろいろあったんですが、奥のほうに510ブルーバードが置かれていた。それを見て父に、このクルマ、ジイちゃんが持ってたよね、と確かめると『そうだ』という。懐かしさがこみ上げ、帰りの新幹線の中でなに気なくネットで探してみたんです。そうしたら、1台売りに出されていたんです。それも地元で」

 ここからがドラマの始まりとなる。いったん気になりだすと、どうにもならなくなるのが人間の性なのだろう。自宅に戻るや父とクルマを走らせ、「物件」のあるショップの展示場に直行。お目当ての赤いブルーバードSSSがあった。店はあいにく連休中で休業だったが、暮れなずむ中、クルマの向きを微調整しながらヘッドライトを当て、細部までつぶさに観察したという。この光景をはた目で見たら、挙動不審の2人組と映ったことだろう。


【画像15枚】「ジイちゃんのブル」判定の決め手となった3カ所のホディ痕など

 そしてオーナー父がひと言。

「オヤジのクルマだ」

 ネットで見つけた時、すでに「もしや」とは思っていたそうだ。珍しい赤の4ドア1800SSS、1971年式、地元の業者。でも、まさか、だった。

 そして父の言葉を受けたオーナーもひと言。

「じゃあ、買い戻そう」

 連休が明けるとすぐにショップに連絡。ところが、すでに商談中で話が進んでいるという。しかし、そんなことで運命のクルマを諦められるわけがない。ショップの代表に事情を話し、商談客に頼み込んだ結果、その誠意が通じてか「ジイちゃん」のブルーバードはオーナー一家の元に帰ってくることになったという。

 しかし、イベントへ行ったこと、ネットで検索したこと、業者の店舗まで出向いたこと……、このどれかひとつ欠けても実現しなかった話である。

 紙一重のタイミング、いやいや、運命のタイミングとも言えるような、それこそ奇跡の巡り合いになった。





直線基調のデザインは現代の目で見ても端正で美しいブルーバード1800SSS。




「ジイちゃんのブル」判定の決め手となった3カ所のホディ痕。まず、フロントバンパー上のフォクランプ取り付け用の穴。角形フォグ(おそらく純正)を付けていたという。





リアフェンダー下部の修理痕。素人のパテ盛り、ハケ塗りによる特徴ある修理痕だ。





そしてリアガラスのJAFステッカーとリアサイドガラスの「有鉛」ステッカーの位置だ。



【3】に続く

初出:Nostalgic Hero 2015年 12月号 Vol.172(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1971年 日産 ブルーバード 1800 SSS(全3記事)

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text & photo : AKIHIKO OUCHI/大内明彦

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