【4WS】80年代に流行した新感覚ステアリング! 前輪も後輪もタイヤの向きを変えちゃう|ハチマル・テクノロジー Vol.1

うねうねと後輪が動くさまを見せるCMが話題をさらった。先進的なテクノロジーが次々に採用された80年代ならではの装備といってもいいかもしれない。

       
「4WS」は、ドライバーがハンドル操作をすることにより、前後両方のホイールが方向を変える機構を意味し、日本語では「四輪操舵」という名称で呼ばれている。

 ハンドル操作によって四輪操舵される後輪の方向は、前輪と同じように向きを変える「同位相(同相)」と、ハンドル操作とは反対に後輪が向きを変える、「逆位相(逆相)」の2機能が組み込まれている。

 4WSシステムで採用している「後輪逆相方式」は、建設現場で使われている特殊車両などで採用されており、ホンダでは、乗用車(プレリュー)に対する初採用以前の段階で、農業トラクター「マイティ11」に、逆位相仕様のステアリング機構を採用している。これは、4WSの逆位相によって最小回転半径を小さくすることのメリットを生かす目的がある。

 国内の生産車として「4WSシステム」を初採用したのは「ホンダ・プレリュード」の1987年モデルだ。

 ホンダ製初期モデルの4WSは、ステアリングの操舵角に応じて後輪の切れ方向と角度が変化する「舵角応同方式」が採用されていた。この方式は、低速時の後輪逆位相切れ角度が5度、高速時の後輪同位相切れ角は1度から2度くらいという設定になっている。この後輪切れ角度は、車庫入れや交差点の右左折のような低速走行のときには、ハンドルの操作角が大きいのに対し、高速走行時のハンドル操作角は、ごく小さいという、一般的なハンドル操作の状態を基にして設定された

 しかし、ここで問題が発生する。低速走行の前進側は、小回りの利く利点が発生するものの、バック走行のときに後輪が逆位相状態になると、通常の運転感覚とは、かなりかけ離れたハンドル操作が必要になる。また、壁寄りいっぱいに停車しているクルマを前進させるときにハンドルをいっぱいに切ると、状況によっては、リアフェンダーが壁に接触する可能性がある。これは、通常の前輪操舵車で、バックによる車庫入れをするとき、うっかりしていると、回転外側のフロントフェンダーが壁に接触する可能性がある状態に似ている。

 プレリュードの後に4WSシステムを採用したトヨタ仕様のカムリやヴィスタなどで使われた4WSは、このようなバック走行時の不都合を解消するため、バック走行用として「4WSキャンセルスイッチ」を装備している時期もあった。

 しかし、初期のプレリュード仕様4WSは、高・低速の後輪角度切り替えとして「遊星ギヤ方式・クランク切り替え機構」という凝った機構を採用していたこともあり、低速時の逆位相キャンセル機能を組み込むことが難しかったという状況もあるようだ。

 ホンダ・プレリュードに4WSが登場して以降、三菱は、ハンドル操作や速度などをコンピューターが総合判断し、後輪の位相を変換するタイロッドを油圧制御するシステムを採用。トヨタは、後輪制御用のギアをモーターによって駆動する方式を採用。また、日産は、パワステの油圧を併用した油圧によってシリンダーを駆動する「スーパー・ハイキャス」を、後輪駆動のR32スカイラインに採用。以後、スーパーハイキャスは、ギアユニットを電動モーターによって駆動する方式に変更されている。

 同位相と逆位相のホイール角度は、それぞれのメーカーによって違いがあり、トヨタ方式は、同位相時の操舵角を、2.5度から5度に変更する時期があるなど、各メーカーともに、位相の角度設定には、かなり試行錯誤を続けたようだ。また、各メーカーともに、高速走行時の同相に移行する寸前の段階で、瞬間的に逆位相機能を組み入れることによって、高速時のステアリング操作による走行安定度を向上する機能を組み入れるようになってきた。

 このように、一時期「流行?」した観のある4WSだが、高速走行の安定性確保は、ABS用のセンサーや機能を発展利用した「横滑りコントロール装置(例:トヨタ名称・VSCなど)で十分に対応できる状況になり、一般車用として、低速時の小回り性向上だけのために、重量やコスト面で負担になる「4WS機構」を採用するケースは少なくなっている。


遊んでいる後輪をステアリングに参加させることができないだろうか? という考えで生まれた4WS機構。


見ての通り後輪が操舵しているのが分かる。




縦列駐車駐時に、逆位相→中立→同位相→中立へと、くねくね動くさまを見せたCMが印象的だった。


長いシャフトで連結されているため、当初工場のラインに入らず開発は難航した。

掲載:ノスタルジックヒーロー2010年11月号増刊 ハチマルヒーロー vol.14の記事を元に再編集したものです。

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text :Tatuhiro Nagashima/長嶋達人 photo:Nostalgic Hero/編集部

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