それほど旧車に興味があったわけではない。一度はAE86で思う存分楽しんだ時期もあったというが、気がつけばそれぞれの時代の現行車を乗り継いでいたというオーナー。
それがある日「旧車もなかなかいいなぁ」と気持ちが傾きはじめると、坂を転がり落ちるようにして急加速。「510は旧車の保守本流、それほどでも」という認識とは裏腹に「やっぱりカッコいい」という思いが募り、510探しに奔走することになったのだが……。
【1967年式 日産 ブルーバード 1300DX 〜2016〜 Vol.5】
【4】から続く こうした入手のエピソードをうかがってから実車を見せてもらうことになった。写真で判別していただけるかどうか、オーナーの愛車は510によく見られるブルーメタリックではなく、ブルーとグリーンの中間色メタリックだ。記憶にない色だが、車体の細部をチェックしてみたところ、どうやら元色のようだと判断できた。当時のカタログをお持ちの人なら、この色の有無はすぐに分かるだろう。
ドアを開けると一瞬の違和感があった。内装色やリアシートがブルー系でまとめられているのに、前2席だけが黒レザーのセパレートタイプなのだ。
「たぶん、間違いなく内装と同色のベンチシートだったと思います。私が手にしたときはすでにこの状態だったので、前オーナーの方が取り替えられたのでしょう。ただ、シート自体はブルーバードの純正品なので、まるっきりオリジナリティーを損なう仕様とも言えません。旧車を維持する上でのむずかしい問題だと思います」
スピードメーターが横長のデザインであるあたりに時代性がうかがえる。ベーシックモデルでもすでに丸メーターを採用している車種もあったが、1967年当時のブルーバードは、軽量高剛性モノコックボディに4輪独立懸架、SOHCエンジンという先進のメカニズムに、横長のスピードメーター、ベンチシート、3速コラムシフトを組み合わせる、いま見るとなんともアンバランスなとりまとめだった。
>>【画像18枚】前2席のみ内装色と異なる黒レザーのセパレート仕様のシートなどエンジンはオリジナルのL13型のまま。ただし中身はボアアップによってL16仕様に。キャブもSSS用のSUキャブを2連装。組み合わせの自由度が高いL型エンジンならではの純正チューン。
スーパーソニックラインと呼ばれた直線基調のボディフォルム。歴史的に日本市場は直線を好み丸を嫌う傾向にあった。丸い410系、角のとれた610系は不振、直線基調の510、910は評判がよかった。すっきりとスマートに見え、存在感や押し出しのあるデザインが日本市場ではずっと好まれてきた。形としてのまとまり、あるいは形のよさはあってもラウンドフォルムは受け容れられないという不幸な運命にあった。
【6】に続く初出:ノスタルジックヒーロー 2016年 6月号 Vol.175(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
1967年式 日産 ブルーバード 1300DX(全6記事)関連記事: 旧車生活へのいざない 関連記事: ブルーバード 【1】【2】【3】【4】から続く