小型車の合理性と個性を花の都に認めさせたシトロエン2CV 2

当惑のデビュー

 かくして、第2次世界大戦終結後の48年。この年10月に開催されたパリ・サロンで発表された新型車「シトロエン2CV」は、革新的な小型車となっていた。強固なプラットフォーム上に載せられるボディは、ドアやフェンダーの薄板化や、ルーフとトランクリッドをキャンバス張りとするなどの徹底的な簡素化により、大人4人が快適に移動できる居住性を確保しながら、車両重量にしてわずか495kgという驚くべき軽量を実現していた。

 さらに革新的だったのは、前リーディングアーム/後トレーリングアーム式の4輪独立サスペンションである。この前後アームに接続する一対のコイルスプリングは、サイドシル下にフローティング・マウントされた筒状の一体型ケースに収められ、いわば関連懸架とされた。しかも、アーム根元のフリクション式プレートと筒内でコイルに吊られた錘が上下する構造の慣性ダンパーの効果も相まって、素晴らしい乗り心地も実現していたのだ。

 そして当然のごとくFWDレイアウトとされたエンジンは、わずか375ccの空冷水平対向2気筒OHV。パワーも9psに過ぎなかったが、軽量な車体のおかげで、最高速度にして65km/hという必要充分な動力性能に加え、約22km/lの低燃費も両立していた。

 ところが、パリ・サロンにて初めて2CVを目のあたりにした観衆の第一印象は、決して芳しいものではなかった。曰く「ブリキ小屋」、ないしは「缶詰」などと嘲笑された上に、アンベールを引き受けた当時のオリオール大統領も当惑のあまり言葉を失ったという。しかし、真の購買層と見込まれていた地方の農民は、このクルマの才能を早々に見抜いていた。

 そして「自動車」というよりは、農具や鍋釜にも等しいフランス人の「民具」として認知され、大ヒットを博することになるのだ。しかも、当初は戸惑いを隠せなかった都市在住の知識層も次第にこの合理性を認めたばかりか、持ち前の個性とエスプリからファッション的な記号性も見出すようになっていったのである。

 こうして大成功を収めた2CVは、54年に排気量を425ccまで拡大。最高出力12ps/最高速70km/hにスープアップした発展型、つまり今回の主役であるAZ系に進化するが、その後の長いモデルライフ解説と成功物語は、またの機会に譲りたい。





ノスタルジックヒーロー 2013年2月号 Vol.156(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hiromi Takeda/武田公実 photo:Daijiro Kori/郡 大二郎

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