超前衛派のフランス製スモールカー パナール 2


 46年、のちにライバルとなるルノー4CVと同じパリ・サロンにデビューしたパナール・ディナXは、この時代としては極めて先進的なコンセプトを持つ小型車であった。
 21世紀の現代においてもフェラーリやアストンマーティン、あるいはホンダNSXなど、アルミ製のシャシー/ボディを持つクルマは一握りの超高級車に限られる。ところが、実に70年前にデビューしたディナXは、初期型では600cc、最終型でも850ccという小さなフラットツインを搭載する超小型車ながら、ALPAX合金(アルミ系軽合金)鋳造材のサイドレールとスカットルを中心に構成されたプラットフォーム型セミモノコックにアルミ製ボディが与えられた、まさしく総アルミ車だったのだ。
 ちなみに、アルミボディの量産体制を持たないパナール社に代わってボディ生産に当たったのは、のちに自社で超豪華グラン・ルティエ(グランドツアラー)「ファセル・ヴェガ」を製造することになる金属スペシャリスト「ファセル・メタロン」社であった。
 そして車体前端に置かれ、前輪を駆動するパワーユニットにも、シンプルながら極めて革新的なものが選択された。空冷水平対向2気筒エンジンはヘッドとブロックが一体鋳造されたALPAX合金製で、燃焼室はOHVながら効率のいいクロスフロー。吸排気バルブには一般的なコイル型スプリングではなく、1本で吸/排気両方を賄う、凝った形状のトーションバーが用いられている。そして、このエンジンの「素性の良さ」は、のちにハイチューンが施されて、かの「DB」など数多くのレーシングスペシャルに搭載される際にも大いに役立った。
 このフラットツインは極めてコンパクトで軽量なため、車体前端に積まれても重量配分に悪影響は小さく、同時代のシトロエン2CVのようにファイナルをミッションの前に配置するような無理も必要なかった。また、当然ながらトラクタ式等速ジョイントが採用されていることも併せて、トラクション能力はこの時代のFF小型車としては極めて優れており、この点もレーシングベースとするには大きなメリットとなっていたのである。
 しかし、筆者の個人的な思いを言わせていただけるなら、このクルマの最大の魅力は個性あふれるデザインにあると訴えたい。写真では一見醜怪に映るかもしれないが、現物は30年代後半にフランスの高級車で流行した「フラム・ボワイヤン(火焔)」様式を小型化し、さらに腐り落ちる寸前まで熟成したような爛熟感が横溢している。また、アール・デコ様式が色濃く残るインテリアも、当時の小型車としてはとても豪華なもの。真の高級車メーカーだったパナールの息吹が、あらゆる面で実感できるのである。





ノスタルジックヒーロー 2016年6月号 Vol.175(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hiromi Takeda/武田公実 photo:Jyunichi Okumura/奥村純一

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