超前衛派のフランス製スモールカー パナール|輸入車版懐古的勇士

【輸入車版懐古的勇士】

第二次大戦とナチス・ドイツの占領で破壊の限りを尽くされたフランスの経済は、世界最古の自動車メーカーの一つ、パナール・エ・ルヴァッソール社にも旧来の経営方針の抜本的な転換を余儀なく迫っていた。

 1891年の実質的創業以来、スリーブバルブ式エンジンを搭載する保守的な高級車メーカーとして成長し、小型車とは縁遠かったはずのパナール社は、その窮状を切り抜ける唯一の手段として、小型車の生産を決定。その分野で経験豊富な名匠の手を借りる決断を下す。

 この時、パナール社の目にとまったエンジニアこそ、前輪駆動の可能性を一気に高めたトラクタ式等速Uジョイントを発明し、「前輪駆動の父」と呼ばれたジャン・アルベール・グレゴワール。グレゴワールは26年に「オートモビル・トラクタ」社を創業し、1100ccエンジンで前輪を駆動するスポーツカーを製作。27年のル・マン24時間レースで総合7位に入賞するなど目覚しい成果を挙げている。

 そのグレゴワールが、30年代末に仏・アミルカー社のために設計した小型車「コンパウンド」。そして終戦直後の発展型「アルミニウム・フランセ・グレゴワール」構想は、諸事情から量産には至らなかったものの、先進的なコンセプトがパナール社首脳を瞠目させた結果として、パナール初のベーシックカー「ディナX」として見事に結実することになるのだ。


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ノスタルジックヒーロー 2016年6月号 Vol.175(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hiromi Takeda/武田公実 photo:Jyunichi Okumura/奥村純一

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