今だから語れる日本カー・オブ・ザ・イヤー 第11回COTY受賞車 ディアマンテ

       
1980年代まで、日本の乗用車の大半を占めていたのは5ナンバーの小型車だった。だが、物品税が廃止され、消費税が導入されると、排気量2ℓを超えるエンジンを積み、ボディを大型化した「3ナンバー車」が主役の座に躍り出てくる。やがて年号が「平成」に変わった89年ごろからは、小型車の殻を破り、世界に通用するクルマが次々と誕生するようになった。

 昭和から平成に変わるころ、日本ではバブル景気が絶頂を迎えていた。ゴッホの絵が絵画最高額で落札されたのは90年5月のことである。自動車業界も同様で、元気いっぱいだった。上り調子にあったころに開発が進められたビッグサイズの乗用車は、90年に相次いで秘密のベールを脱いだ。

 堂々としたたたずまいが目を引く、3ナンバー車の筆頭にあげられるのが、2台の三菱車である。5月に鮮烈なデビューを飾ったのが、高級パーソナルセダンの「ディアマンテ」だ。その半年後の11月、今度は伸びやかなシルエットの4ドアセダン、「シグマ」を送り出し、注目を集めた。

 ディアマンテはスタイリッシュな4ドアのピラードハードトップだ。その当時、人気の高かったE30系ギャランから凛々しい逆スラントの二分割グリルを受け継いでいる。全長は4700㎜をちょっと超える程度だが、全幅は1775㎜とワイドだし、背もギャランより低かったから、押しが強く、ドッシリとした安定感もあった。

 メカニズムを共有するシグマは、ディアマンテの4ドアセダン版と位置づけられている。こちらは6ライトウインドーのサッシュ付きドアで、ディアマンテより背が25㎜高い。頭上の空間は余裕があり、居心地のよさとエレガントさは一歩上を行っている。

 エンジンは「サイクロン」のニックネームで呼ばれる4バルブのV型6気筒だ。すべて電子制御燃料噴射装置のECI仕様で、ボトムの2ℓエンジンはSOHC、上級の2・5ℓと3ℓエンジンはDOHCだった。トランスミッションは、ホールドモードを備えた電子制御(ELT)4速ATを組み合わせている。少数ではあったが、5速MT車も用意されていた。

 横置きレイアウトのエンジンで、前輪を駆動するが、これをベースにしたビスカスカップリング付きセンターデフ式フルタイム4WDも設定している。その当時、6気筒エンジンが主役のアッパーミドルクラスは、後輪駆動のFRが主流だったが、ディアマンテはいち早く横置きエンジンのFF方式を採用し、快適な空間と洗練された走りを手に入れている。

 サスペンションや安全装備も時代の最先端を行くものだった。サスペンションはフロントがストラット、リアはFFがマルチリンク、4WDはダブルウイッシュボーンを配している。電子制御サスペンションのアクティブECSを筆頭に、車速・操舵力感応型4WS(4輪操舵システム)やアンチロックブレーキの4ABSなども装備した。これらを総合して制御するシステムを、三菱では「アクティブフットワークシステム」と名付けている。

 ほかにもハイテク制御技術を満載していた。トレースコントロールとスリップコントロールの機能を含んだトラクションコントロール(TCL)やインテリジェントコクピットシステムのMICSなどはその一例だ。シグマの発売とタイミングを合わせてサイドドアビームを組み込むなど、衝突安全にも真剣な姿勢を見せている。

 この年は、新しい感覚、新しい価値観を持つクルマが数多く発表され、注目を集めた。三菱ではディアマンテとシグマ以外に、新時代の4WDスポーツカー、GTOを、ホンダは日本で初めての本格派ミッドシップ・スポーツカー、NSXを市販に移している。NSXは、飛び切り高性能なDOHC・VTECエンジンを総アルミボディの後方に搭載し、卓越したフットワークと正確なハンドリングを実現した。

 マツダも意欲作が多く、ハイライトは、世界で初めてGPSナビや3ローターの20B型ロータリーエンジンを搭載したユーノスコスモだ。また、カジュアルセダンのレビューも市場投入している。また、いすゞ自動車も、個性派のジェミニクーペを送り込んだ。

 日産は異次元の走りを見せるプリメーラを発売に移した。パッケージングから見直し、機能を徹底追求したFF方式のファミリーカーだ。さらに、弟分のパルサーもデビューさせている。  トヨタの注目モデルは、ミニバンの先駆けとなったエスティマだ。アンダーフロア・ミッドシップの画期的なレイアウトのミニバンで、特別賞を受賞。

 こうした状況からカー・オブ・ザ・イヤーは激戦となり、下馬評ではNSX有利といわれていたが、最終的にはディアマンテとシグマが獲得したのだ。理想的な普通車枠のボディサイズを採用したことと先進技術を積極的に導入したことが高く評価された。

 ディアマンテはバブル景気を追い風に大ヒットを飛ばし、後世に語り継がれる名車となっている。このクラスのひとつの基準を作った功績、これも見逃すことができないだろう。

ディアマンテ
全幅1775㎜のたっぷりとしたサイズのボディが、高級感を漂わせる。ラインナップの中心は2.5ℓと3ℓのV6エンジン搭載車。2ℓのV6エンジン搭載車も1グレードのみラインナップされたが、ボディは共通で全車3ナンバーだ。5ナンバーサイズにとらわれることなくデザインされたボディは伸びやかなフォルムを見せる。


シグマ
約半年遅れでデビューした兄弟車のシグマはセダンボディ。ヘッドライトやテールレンズのデザインも多少異なるが基本コンポーネンツは共通。グレード構成も似通ったものとなっていた。

ディアマンテ
上級グレードでは木目のパネルや本革がふんだんに使われた贅沢なインテリア。

ディアマンテ
オーナーやパートナーを包み込むようなラウンドコクピットデザインを採用。25V以上のグレードでは、インパネ、トリムパネル、センターコンソールなど、広範囲に木目パネルを使用し高級感を演出。

ディアマンテ
サスペンションは、フロントが全車ストラットで、2WDモデルのリアはマルチリンク、4WDモデルはダブルウイッシュボーン。4WS装着車も設定された。

ディアマンテ
電子制御可変吸気システムを採用した2.5ℓのV6エンジンがシリーズの中心を担う。上級グレードは3ℓのV6エンジンを搭載する。

エスティマ
新コンセプトサルーンとして登場したトヨタ・エスティマ。ミニバンの新しい価値観を確立したエポックメイキングなモデル。同年のCOTY特別賞を受賞。

nsx
この年には、世界に誇れるスポーツカーとしてホンダNSXも登場。大いに話題を振りまき下馬評も高かったが、COTYの栄冠はディアマンテに譲ることとなった。


掲載:ハチマルヒーロー 2013年 05月号 vol.21(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hideaki Kataoka / 片岡秀明

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