フィンランド・ スペシャル【4】国内に輸入された510ブルにはなかった2ドアを輸入|アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方 第27回

ヘルシンキから40km離れたヌルミヤルビ村に、きれいなショップを構えていたアルボ・ライティネンさん。リフトのある作業スペース、奥の部屋は旋盤の置かれた作業室、さらに奥には車両ストレージまで備えていた。BRE仕様のダットサン510を当時のレギュレーションに沿って再現するプロジェクト(実際にレース走行するために)の最中だった。「資料を研究することも重要。フィンランドに輸入された510はすべて4ドアだったので、2ドアを2台だけアメリカから輸入した」という

       

トヨタアウトフィンランドの博物館を訪問

1950年代から日本製の乗用車や商用車は、世界各国に輸出を開始した。言葉では理解していたつもりでも、私たちの知らない土地で使われている国産旧車を目にすると、それは感慨深いものがある。この連載「アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方」が北アメリカ大陸を飛び出して、初めてヨーロッパからリポートをお届けすることになった。北欧の国のひとつ、フィンランドの日本旧車オーナーたちの様子を紹介する。

【 アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方 フィンランド・ スペシャル Vol.4】

 【3】から続く

 トヨタ博物館を訪れたあとの午後は、有志がガレージツアーを企画。フィンランドでの旧車ライフの苦労と工夫と楽しみを垣間見る機会になった。

 都会の旧車ライフを代表するのがヤニ・ティックネンさん。夏用のクルマだというR32スカイラインGT‐Rで、マンションの下へ潜るようなスロープを下りると、枯れ葉の吹きだまったゲートがあった。中はシェアスペースになっていて、金網で区切られた一角がティックネンさんのガレージだ。

「シェアレンタルでガレージ費用を安く抑えられたのはラッキー」
 そんなティックネンさんの言葉に、レストアを計画する人にとってのガレージ確保の難しさがにじみ出ていた。


>>【画像25枚】トヨタアウトフィンランドの博物館を訪問したショットなど。週末にもかかわらず、旧車クラブの訪問を快く迎えてくれた。博物館にはコルピバーラ社の輸入したクルマとともに、フィンランドにおけるトヨタ史が記録展示されていた。左端の黒のティアラ(コロナ)はフィンランドに輸入された2台のうちの1台。もう1台もフィンランド内に現存しているそうだ。隣の白いクラウンはフィンランドに輸入された、まさに第1号車。オーナーを探し出して寄贈してもらったとのこと。博物館の壁には歴史的な写真が多数掲げられていた


 郊外に向かって1時間ほどクルマを走らせ、掘り起こされた畑の間の砂利道を行くと、倉庫のような白い大きな平屋の建物の前で道が行き止まった。郊外にガレージを持つ、アルボ・ライティネンさんのショップだ。サーキットレースやラリーを楽しむライティネンさんは、広い作業スペースと車両の保管庫が必要。雑木林を背にした隣人や騒音を気にする必要もなさそうなこの場所で、友人や家族とともに、のびのび旧車ライフを楽しんでいた。

 交わす会話の中から、左ハンドルのハコスカが近所にある、という情報が入った。持ち主だという人を訪問してみると、目の前に現れたその個体は明らかにハコスカ。ところが長年屋外に放置され、ボディや足回り、機関までもかなりのダメージを受けていた。

「30年前、シリンダーヘッドが壊れたので、知り合いに修理を依頼したんです。ところがお釈迦にされてしまった。交換パーツを日本から取り寄せる手配もしたのだけれど、到着が遅れ遅れになるうちに、段々とこのクルマへの興味をなくしてしまいました」

 オーナーのマルッティ・オラヴァさんはいきさつを説明してくれた。土に根を生やしたような、つぶれた4本のタイヤが、この国の厳しい自然を語っているかのようだった。

 ぜひ世界地図を開いて、フィンランドという国の位置を確認してみてほしい。海の向こうの、そのさらに奥まった場所にあるこの国まで日本旧車はたどり着き、そしてしっかりとその根を下ろしていたのだ。



トヨタアウトフィンランドの博物館を訪問。週末にもかかわらず、旧車クラブの訪問を快く迎えてくれた。博物館にはコルピバーラ社の輸入したクルマとともに、フィンランドにおけるトヨタ史が記録展示されていた。左端の黒のティアラ(コロナ)はフィンランドに輸入された2台のうちの1台。もう1台もフィンランド内に現存しているそうだ。隣の白いクラウンはフィンランドに輸入された、まさに第1号車。オーナーを探し出して寄贈してもらったとのこと。博物館の壁には歴史的な写真が多数掲げられていた。






「2017年にはコルピバーラ100周年を迎えます」と言って、博物館を案内してくれたカレ・カラヤさんは、トヨタアウトフィンランドの広報マネージャーであり、また仕事から離れてもトヨタクラブのメンバーとして活動している。トヨタ車が好きだからトヨタに就職した、というのが本当のところだそうだ。同じクラブに所属するアルト・バルカマさんとともに、ヘルシンキから360km離れたセイナヨキの町で、毎年盛大なトヨタショーを開催するほどの熱の入れよう。








ヤニ・ティックネンさんは、マンション地下のシェアスペースをガレージとして使っている。壁沿いには積み上げられたパーツ。「特に貴重なパーツはクルマの中に入れて鍵をかけてあります」。ティックネンさんのシェアスペースならではの工夫だ。ダットサン710を今年仕上げるつもりで、目標は何と出力450psだそうだ。そのあとにはダットサン240Zと240KGTのレストアも計画中とのこと。



ノスタルジックヒーロー 2015年 10月号 Vol.171
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方 フィンランド・ スペシャル(全4記事)

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 【1】【2】【3】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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