アメリカの庶民にとって、ピックアップトラックを所有することは、ひとつの自慢のネタでもある。日本の商用車感覚とは別の価値が存在している。ニッポン旧車とのかかわりを持っていたオーナーが、とあるきっかけと妻のひとことで緑色のトヨタ・ハイラックスと出合った。プロメカニックの経験を生かしてレストアを開始。実際に使えるトラックに仕上げたのだった。
【1974年式 トヨタ ハイラックス Vol.1】
子供の時の記憶がよみがえる瞬間。リアム・シューベルトさんが語った。
「父の69歳の誕生日に、きれいに仕上げた1969年式ダットサン510をプレゼントしました」
父がそれを運転して、と続けた。
「1速から2速へシフトする時に空ぶかしする音が聞こえた。体にビビッときた。『そうだ、これだ!』って。父の運転の癖だったんです。僕の耳が、僕の体が覚えてたんですね」
シューベルトさんはハワイで生まれ育った。覚えている限り父親はいつも、所有していた510をいじっていた。
「父は今でもロサンゼルスで510を楽しそうに乗ってます」
子供の時分から510を体験したシューベルトさんだったが、いつしか510のことは記憶のかなたへと遠のき、青年期の興味はバイクへと向かった。専門学校へ通ってバイクの整備を学ぶとハーレーダビッドソンのディーラー店に職を得た。ところが、売っているままのバイクはどうもつまらない。意を決したシューベルトさんはスペインに居を移した後、見つけた仕事が中東カタールでのレースバイク製作。こうしてレースバイクのプロとして活動を始めると今度はドゥカティのチームへ加わる機会に恵まれ、モトGPと共に旅をする生活が3年間続いた。
「2007年のツインリンクもてぎでのレースをよく覚えています。その年のドゥカティの優勝を確定させたレースだったから」
>>【画像13枚】「そのままにしておきたい」とシューベルトさんは言う。シフトノブとハンドルを除けば、あとはオリジナルのキャビンなど22R型を積んだハイラックスは元気に走る。ウエバーキャブの吸気音が心地よく、フロアシフトの5MTも操作はスムーズ。ロングホイールベースのためかコーナリングでは独特の曲がり方が感じられた。
【2】に続く初出:ノスタルジックヒーロー 2017年6月号 vol.181
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
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