スポーティと大衆車の共存! トヨタ スポーツテイストの軌跡1 

パブリカ・スポーツの名で全日本自動車ショーに展示され、話題をまいたトヨタスポーツ800

       
トヨタ スポーツテイストの軌跡1 



保守的なイメージが強いトヨタだが、その歴史を振り返ると、新しい技術や新ジャンルにチャレンジし続けてきた姿が見えてくる。今回はトヨタの「スポーツ性」を軸にその軌跡を追ってみた。

 トヨタ自動車は販売戦略にたけているが、技術力レベルはそれほど高くないと見ている人は意外と多い。日産やホンダ、マツダなどと比べると保守的な自動車メーカーと感じている人も少なくないようである。だが、実際にはチャレンジ意識の強いメーカーだ。新しい技術、新しいジャンルにも早い時期から目を向け、市販化するのも早い。その筆頭が、世界で初めて量産化に成功したハイブリッドカーである。1997年12月、ライバルに先駆けてプリウスを市販に移した。

 トヨタは自尊の念が強いメーカーでもある。黎明期、日産やいすゞは欧米の自動車メーカーから学ぼうと提携を結び、技術の習得に励んだ。これに対しトヨタは、海外メーカーからの技術導入を選んでいない。敢えて、自社技術で勝負する困難と思われる道を選んでいる。新しい技術を磨くとともに知恵を絞り、苦労の末にクラウンやパプリカを完成させた。これらのファミリーカーの成功が、今につながるトヨタの礎を築いたのだ。

 高度な技術を身につけているメーカーをアピールするため、スポーツモデルも積極的に開発している。63年春の第1回日本グランプリに、ユーザー支援の名目で参戦したトヨタは、高性能で速いクルマが販売促進につながることを知った。また、スタイリッシュなスポーツモデルはイメージアップに大きな効果を生むことも分かった。だから高性能エンジンを積む2ドアモデルを開発し、いち早く市場に送り込んだ。



高性能モデルのさきがけパブリカ

パブリカ 外装

 最初の高性能モデル、それはパブリカ700に設定されている。62年秋の全日本自動車ショウに参考出品され、63年10月に正式発売されたコンバーチブルだ。空冷の水平対向2気筒OHVエンジンにツインキャブを装着したU‐B型は、36ps/5000rpmを発生した。動力性能を高めた結果、最高速度はセダンより10㎞/h高い120㎞/hとなる。キャブレターの数を増やして高性能化を図る手法がこのときから始まった。

 目を引くのは動力性能だけではない。パブリカはフットワークも一級だ。日本グランプリで上位を独占した実力派。冴えたフットワークと小気味よいハンドリングが乗り手を魅了した。トヨタは、パワーだけで魅力的なスポーツモデルは生まれないと悟り、これ以降は足まわりの熟成にも力を入れる。

 パブリカのイメージアップに大きく貢献したコンバーチブルは、もう1台の個性的なスポーツモデルも誕生させている。パブリカ・スポーツの名で全日本自動車ショーに展示され、話題をまいたトヨタスポーツ800だ。65年3月、満を持して正式デビューを飾った。エアロダイナミクスを徹底追求したキュートなデザインのスポーツクーペで、車両重量も580㎏と、超のつくライトウエイトだ。

トヨタ スポーツ800

 メカニカルコンポーネンツはパブリカから譲り受けている。搭載するエンジンは、排気量を790ccに拡大し、ツインキャブで武装した2U型水平対向2気筒だ。45ps/6.8㎏‐mと、スペックはライバルのホンダS800に遠く及ばない。だが、ワインディングロードではパワーに勝るクルマを引き離す冴えた走りを見せつけた。ライトウエイトスポーツの傑作、トヨタスポーツ800はストリートで軽快な走りを、サーキットではしたたかな走りを披露している。

 同じ時期、上級ファミリーカーのコロナにも魅力的なモデルを追加した。セダンにパワフルなエンジンを積んだコロナ1600Sだ。1490ccの2R型直列4気筒OHVの排気量を1597ccに拡大し、SUタイプのキャブレターを2基装着した。90ps/12.8㎏‐mの高性能を誇るコロナ1600Sは4R型エンジンにフロアシフトの4速マニュアルを組み合わせ、最高速度160㎞/hをマークする。フットワークも軽快だ。
 また、タコメーターを追加してスポーティ感覚を高めただけでなく前輪にディスクブレーキを配し、止める性能も大幅に強化した。1600S以降、サスペンションとブレーキの性能アップはスポーツモデルを造るときの常套手法となっている。走る、曲がる、止まるの3要素を徹底的に磨き上げた。


コロナ 外装
 7月にはコロナのセンターピラーを取り去り、Cピラーの傾斜を強めた2ドアハードトップを放った。ハードトップ形状のクルマは国内初。パーソナルカー、スペシャルティカーブームの火付け役となり、デザイン史においても傑作として記憶にとどめられている。スポーツモデルに洗練されたデザイン、美しいデザインは不可欠である、と教えてくれたのがハードトップの成功だ。

 エレガントなコロナのハードトップボディに、9R型と呼ぶ直列4気筒DOHCエンジンを組み合わせたのがトヨタ1600GTだ。高回転型としてパワーを絞り出すため、キャブレターはソレックス2連装。最高出力110ps/6200rpm、最大トルク14.0㎏‐m/5000rpm。性能的に1600Sを大きく上回っている。



DOHCの本格派スポーツカー登場

 トヨタ1600GTが発売された67年には、今なお日本を代表する名車としてあがめられているトヨタ2000GTも誕生した。これはトヨタ、そしてパートナー関係にあるヤマハ発動機のエンジニアが持てる限りの技術を駆使して開発した日本初のプレステージ・スポーツカーだ。発売までにレースを通して鍛えられ、まったく妥協を許さなかった。

 トヨタ2000GTは、本格派を実感できるプレステージ性の高いスポーツカーである。高い志と最少の制約のなかで開発が進められ、ほとんどの部品は専用設計だ。当然、メカニズムも魅力的である。長いボンネットのなかに日本で初めての直列6気筒DOHCエンジンを収めた。これにソレックス40PHHキャブを3連装し、当時の2Lエンジンとしては最強スペックを手に入れている。5速マニュアルを駆使しての最高速度は220㎞/h、ゼロヨン加速は15.9秒だ。

 OHVやSOHCのベースエンジンのヘッドまわりを大幅に改造し、DOHC化することによって高性能を得ているのが、トヨタDOHCの大きな特徴である。DOHCヘッドの架装に当たってはヤマハが重要な役割を果たした。70年代以降は、スポーツツインカムと呼ぶDOHCエンジンに「G」の称号を与え、高性能を誇示している。

 70年秋に鮮烈なデビューを飾り、一世を風靡したセリカ1600GTとカリーナ1600GTが積むのは、T型OHVを母体とする2T‐G型直列4気筒DOHCエンジン。セリカLB 2000GTやコロナ2000GTには18R‐G型DOHCエンジンが搭載され、豪快なDOHCサウンドを奏でた。

 ライバルに先駆けて5速MTをスポーツモデルに採用したのもトヨタである。DOHCと5速MTをリンクさせ、スポーツイメージを一気に高めた。初めて5速MTを採用したのはトヨタ2000GTだ。これに続きトヨタ1600GTに5速MTを設定した。70年代になるとセリカを筆頭に、積極的に5速MT採用車を増やしている。

 トヨタはコロナと同じ手法で、ファミリーカーのスポーツテイストを高めていった。世界のベストセラーカー、カローラも例外ではない。ファミリーカーは3速または4速のコラムシフトが一般的だった時代に、スポーティなフロアシフトの4速マニュアルを標準として送り込んだ。また、余裕ある走りのために1100ccエンジンを積んでいる。税制面では不利だったが、ライバルのサニーより100cc大きいエンジンを積み、動力性能で差をつけた。

 68年3月にマイナーチェンジを行ったが、このときに高性能モデルを投入している。SUツインキャブを装着し、前輪ディスクブレーキを、エキゾーストはデュアルとした1100SLだ。標準モデルは60ps/8.5㎏‐mだが、SLは73ps/9.0㎏‐mと、大幅に性能アップ。ゼロヨン加速は上質スポーティカーをしのぐ17.5秒の俊足だった。最高速度も155㎞/hをマークする。最終型では1200SLへと進化した。  カローラのクーペモデルとして68年4月にリリースされたのがカローラ・スプリンターだ。2ドアセダンのセンターピラーから後ろをファストバックにし、スタイリッシュ度を高めている。セダンと比べると背は30㎜低い。エンジンやサスペンションなどのメカニズムは共通だ。フラッグシップはスポーティ&ラグジュアリーを掲げた1100SLである。ファストバックボディの採用によって空気抵抗が減ったこともあり、最高速度は160㎞/hと発表された。 

掲載: ノスタルジックヒーロー 2010年8月号 掲載 Vol.140 (記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text:Hideaki Kataoka/片岡英明

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