アメリカの改造ダットサン240Zの実力 2|3つの重大改造ポイントが高性能化へのカギ

       

 もしS30フェアレディZがフロントミッドシップとして生まれていたら、はたしてどんなクルマになっていただろう。

 そんな改造をした人がいる。

 カリフォルニア州レベックという田舎の村に住むトム・ニッカーソンさん。エンジンをフロントミッドシップの位置に搭載するには、相当な改造が必要。楽しく、かつ安全にするのに重要なのは次の3点だった。

 まずは何と言ってもボディの補強だ。前輪車軸上にあったエンジンを後方へずらしたのだから、この重量物が前後の車軸間にぶら下がっている形になり、ボディ全体が下へたわむ。このたわみを避けなければならなかった。バックボーンのフレーム構造を有するトヨタ2000GTとは違って、S30Zのボディはモノコック構造なので、安易な変更はできない。そこで思い切ってフレーム構造へ変更することにした。

 前輪車軸の位置からリアのデフ近くまで、シャシーの中央付近に楕円断面のチューブラーラダーフレームを設け、これをダッシュボード下からキャビン上を通り、座席後部へと落ち込むサブフレームによって補強した。こうして立体的なスペースフレーム構造とすることで、フロントミッドシップに耐えうるボディ強度を得た。

 次はセンタートンネルの拡大である。前述のように、S30Zは開発段階で6気筒エンジン搭載に変更されたので、クラッチやトランスミッションを大型化するためにセンタートンネルを広げ、結果的にボディ幅まで拡大したという逸話がある。シャークの改造においては、後方に押しやられたトランスミッションの幅広部分がキャビンに入ってくるため、センタートンネルをさらに広げなければならなかった。

 しかしスタイルを保つためにはボディ幅を広げるわけにはいかず、当然キャビンの足元、そして運転席自体が狭くなった。後方へ追いやられたトランスミッションには、前に向かって曲がったシフトレバーを取り付けて、通常のシフト操作を可能にした。前輪車軸をクリアするのに、エンジンとトランスミッションを後方へ300mmも下げたのだ。

フェアレディZ シャシー
パワートレインを両側から挟み込むように、ラダーフレームが通る。フロントサスペンションのロワ
アームをできるだけ長くとって、キャンバーの変化を最低限に抑える設計をした。


フェアレディZ ラゲッジルーム
スペースフレームの一部がむき出しのまま、キャビン上部を通る。ラゲージスペースは広く確保され
ている。右手前にキノコが生えているように見えるのは給油口。


 3点目、エンジンが後方へ移動し、前輪車軸付近に広くスペースが空いたので、サスペンションの設計自由度が増した。

 ふんだんに使えるスペースを生かして、大胆にも左右にリーフスプリングを渡し、これをアッパーアームの一部としてダブルウイッシュボーン式とした。スイングアーム式にした後輪にはインボードディスクブレーキを採用し、バネ下重量の低減を図った。

 実は、サスペンションに関してはシャークの改造に先立つこと数年前、バネ下重量を低減すべく、実験的な240Zを1台仕上げている。この240Zでは、フロントのコイルオーバーをボディ側へ移動し、ダブルウイッシュボーン式サスペンションとした。

 リアはコイルオーバーのストラットのまま、インボードブレーキを採用した。シャークは従って、その進化型といえるわけだ。インボードブレーキは70年前後のフォーミュラカー、市販車ではジャガーやスバル1000シリーズなどで使われた方式である。

フェアレディZ サスペンション
真横から眺めてみると、エンジンが後方へ移動しているのがはっきりと確認できる。フロントカウル
は、トムさん得意の溶接で、純正のボディパネルを一体化したものだ。エンジンにはスーパーチャー
ジャーの装着も可能で、この写真ではちょうどホイールの真上の部分にそれを確認できる。

フェアレディZ エンジン
L28型エンジン全体が完全に前輪車軸の後ろに収まり、その直前をリーフスプリングが通る。手前左
側に見えるのがシリンダーヘッド冷却用のラジエーター。フォーミュラカーさながらのフロントサス
ペンション! アッパーアームの一部を兼ねるリーフスプリングについて、「軽いし、意外といいん
だよ」という。


フェアレディZ サスペンション
インボードブレーキを採用すると、リアのホイール回りはこんなにすっきりする。後輪を支えるスイ
ングアームは、アルミ製のストラットを介してデフ上部を通るリーフスプリングへとつながれている。
左上に見えているアルミ製の箱はガソリンタンク。


掲載:ノスタルジックヒーロー 2011年6月号 Vol.145(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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