【モータージャーナリストが語るスカイラインの思い出とは?】
スカイラインの思い出をモータージャーナリストの片岡英明さんに語ってもらう。
飛行機屋、そしてクルマ屋を自任するエンジニアの心意気で、時代の一歩先を行く高性能セダンを生み出してきたのがプリンス自動車である。その代表作は、言うまでもなく「SKYLINE」だ。誕生したのは1957年。それから60年以上にわたって走りの哲学と美学を貫き続けてきた。
筆者とスカイラインとのかかわりは初代のALSIまでさかのぼる。商売をしていたわが家にはスカイラインの商用車である「スカイウェイ」があり、配達などに活躍していた。わが家にあったのは1961年秋からの数年間だ。このクルマを買ったのは、父の取引先の社長が、いいクルマだと吹聴し、近所にあったプリンス自動車の販売店を紹介してくれたからである。
この羽振りのいい社長は大のクルマ好きだった。とくにプリンス車にゾッコンほれ込んでいて、BLSIスカイライン1900が出ると衝動買いして、納車された日にわが家に見せに来ている。父もプリンス車の高性能ぶりは認めていた。だからスカイウェイを商用のパートナーに選んだのだと思う。この社長から吹き込まれ、筆者も知らず知らずのうちにプリンス党、スカイラインマニアになっていった。
実際にステアリングを握った最初のスカイラインは、2代目のスカイライン2000GTAだ。友人が中古車を買い、乗っていた。当時は排ガス規制が厳しくなり、これにオイルショックが追い打ちをかけた時期だったから格安で手に入れている。このGTAを借りて、心ゆくまで楽しんだ。
ロングドライブにも何度も出かけ、ワインディングロードもホットに攻めるなど、その魅力を堪能した。アンダーステアが頑固だからタイトコーナーは苦手だ。だが、操っている実感がある。若かったこともあり、ヤンチャな走りもしたが、信号グランプリでは後継のGC10スカイライン2000GTに負けないほど鋭い加速を見せた。
この時期、わが家には3代目S50スカイライン1500があったから、これにも頻繁に乗っている。GTAはG7型直列6気筒だったが、こちらは直列4気筒のG15型だ。1.5Lだったが、軽快なパワーフィーリングで高回転まで気持ちよく回る。ボディが軽いこともあり、フットワークも俊敏だ。
学生時代は、このスカイラインのロングノーズ版であるGC10スカイライン2000GTにもよく乗った。1969年式の4ドアGTで、イエローのボディカラーに黒のレザートップが粋だった。この2000GTでは紀伊半島や四国を巡っている。
L20型直列6気筒エンジンは暖機に時間がかかるが、暖まってしまえば気難しいところはなく、実用域のトルクも豊かだった。パンチ力はG7型エンジンに一歩譲るが、扱いやすく、チューニングすれば暴力的な加速性能も手に入れることができる。GC10 2000GTを2.4Lにスケールアップしたクルマにも乗っていたが、コイツは群を抜いて速かった。
GC10に乗ったとき、驚かされたのはフットワーク性能だ。先代のS54とは次元が違うコーナリング感覚と限界の高さに魅せられた。ハコスカは当時としてはシャシー性能が高く、足もよかったから安心して攻めの走りを楽しめたのである。GT-Rにも何度か乗った。だが、高性能車だけに気難しく、ポテンシャルをフルに引き出せる上質なクルマは少数だったのも事実である。ワイドタイヤを履いたKPGC10 GT-Rに乗っていたとき、おまわりさんから整備不良のキップを切られそうになったことも一度や二度ではない。GT-Rもどきが多かったこともあり、風当たりは強かったのだ。
この時代、もっとも多くステアリングを握ったのは4代目のケンとメリーのスカイラインだ。しかもGTではなく1800スポーティーGLである。4気筒のG18型エンジンは、ファミリーカー用のパワーユニットとしては最高傑作と言える出来栄えだった。クルマとしてのバランス感覚もよかったから、2000GT以上にいい印象を持っている。
5代目のスカイラインジャパンは、自動車雑誌の撮影でハコスカ、ケンメリ、2台のGT-Rとともに八ヶ岳のワインディングロードを走ったことがいい思い出だ。ターボで武装した2000GTは、GT-Rに余裕で食らいつけるほど冴えた走りを見せつけた。
だが、このスカイラインターボ以上にワクワクさせられたのが、6代目のDR30スカイライン2000RSだ。粗削りだが、操る楽しさ、ねじ伏せる楽しさが全身に満ちている。S54B GTBを彷彿させる豪快な運転感覚が好きだ。RSターボは速いし、瞬発力も鋭い。個人的には4気筒エンジンのスカイラインにも強く引かれる。
スカイラインは好きな日本車のトップにあげられるクルマだ。好きな理由は、開発に携わったエンジニアの姿が見えるクルマだからである。ステアリングを握っていると、開発者が語りかけてくるし、設計者の狙いが分かることも少なくない。櫻井眞一郎さん、伊藤修令さん、渡邊衡三さんたち開発責任者の執念と心意気も感じる。
こういった高性能セダン(と2ドアクーペ)は世界中を見回してもスカイラインしかない。血の通った温かい乗り味に多くの人が魅せられ、また乗りたいと思う。だから愛され続け、神話が生み出されるのだろう。
今でも多くの人から愛されるハコスカ、画像はGC10だ。
GT-Rは多くの人の憧れだった。
DR30で操る楽しさを知ったと語る片岡さん。そういう楽しさがファンを創った要因なのかも知れない。
掲載:ノスタルジックヒーロー 2013年2月号 Vol.155(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)
写真片岡さんが「操る楽しさを知った」と語ったDR30など【写真4枚】
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text:Kataoka Hideki/片岡英明
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