「これからは直しながら1台ずつ手放していかないといけない」見つけた旧車を買うばかりでレストア作業が追いつかない|1975年式 ダットサン 280Z Vol.6

こちらの日産フェアレディZ-Lは、安かったから買ったという1971年式のオートマ。一昨年オレゴン州ユージン市で購入して運んできた。20年間所有した前オーナーは、5年乗った後に何らかの理由でガレージに放り出してあったそうだ。オレゴン州のナンバープレートがついたままだったが、とても自走はできない様子だった。

       
手に入れにくいからこそ、手に入れたい……この気持ちは世界共通なのかもしれない。クルマ好きの日本人の一部が左ハンドルの輸入車に乗りたいと思うのと同じように、アメリカのニッポン旧車好きの中ではJDM(日本国内仕様)にこだわる人もけっこう見かける。今回取材したオーナーも「オリジナル」と「ローマイレッジ」にこだわりがあるようで、自分好みのS30Zをコレクションしていた。

【1975年式 ダットサン 280Z Vol.6】

【5】から続く

 コンペンセーション・アナリストという、どこか今時の響きのする肩書きを持つブウさんの職業は、企業の営業担当者や営業請負者のコミッション(歩合制給料)の計算を行うこと。
「会社と個人の契約形態や契約内容はそれこそ一人一人の営業マンごとに異なるので、それぞれの契約の通りに間違いなくコミッションを計算するのが私の仕事です」
 忙しく働く毎日の中では、見つけた旧車を買うばかりでレストア作業が追いつかない。家に置いた車両を母親は早くどけろと言うし、保管場所はいつでも悩みのたねだ。資金やパーツ探しは言うまでもなく、レストアが完成するまでは周りの協力も必要なのは当然のこと。そのうえ公道に出すには所定の法的手続きを踏まなければならない。どこでつまずくかわからない。

「これからは直しながら1台ずつ手放していかないといけない」

 婚約中だというブウさんは、その前に残された1人の時間をひそかに楽しむかのように4台のZに囲まれていた。それでも、心の中のどこかでは時間の焦りを感じていたのかもしれない。
 レストアを待つクルマにしてみれば、本来なら故郷にいるはずだったのに、こんな異国へと連れてこられ、それでもし錆びて朽ち果てるなどしたら、きっとやりきれないことだろう。そんなことのないよう、ここでも個人の熱い情熱が、この世から消えていきかねない日本旧車を救おうとしている。


>>【画像14枚】「オリジナル、オリジナル!」と強調する話し方が印象的。日本も大好きで「昨年夏に日本を訪れたとき、『了解、それでOKです』の意味で使ったサムズアップ(「いいね!」の仕草)が全然通じなかった」と自らのエピソードを紹介してくれた、S30Zをこよなく愛すハン・ブウさんなど



こちらの日産フェアレディZ-Lは、安かったから買ったという1971年式のオートマ。一昨年オレゴン州ユージン市で購入して運んできた。20年間所有した前オーナーは、5年乗った後に何らかの理由でガレージに放り出してあったそうだ。オレゴン州のナンバープレートがついたままだったが、とても自走はできない様子だった。






ガレージの片隅には、280Zに積むつもりだったというエンジンが、エンジンスタンドに載せられたままになっていた。「積むつもりだった」と言ったブウさんの本心を察しかねた。果たして、実際積むことのできる日は来るのだろうか?  




初出:ノスタルジックヒーロー 2016年 10月号 Vol.177(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1975年式 ダットサン 280Z(全6記事)

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【1】【2】【3】【4】【5】から続く

text & PHOTO:HISASHI MASUI/増井久志

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