日本独特の自動車規格である「軽自動車」。維持費が安く、実用的なクルマが多い一方で、スポーツカーやオープンカーなど趣味的なクルマも数多く開発されてきた。マツダAZ-1、ホンダビート、スズキカプチーノの「平成ABCトリオ」は去りゆく平成を代表した趣味的軽自動車といえるだろう。
【ニッポン旧車の楽しみ方第49回 ホンダ ビート vol.2】
ビートというクルマは91年の発売直後から「平成ABCトリオ」の一角として「軽スポーツの走り」的位置付けで語られてきた。その突然変異的なスポーツカーの誕生を今日の視点で捉え直すと、国産自動車史の3つの流れの交わる特異点だったと言うことができる。
特異点であるゆえんは第一に、70年代には実現しなかった量産ミッドシップの流れとして、トヨタMR2を継ぐ位置にあったこと。先行した同社NSXを数えても国内3例目だ。第二に、専用設計されたオープンカーであったこと。60年代のダットサン・フェアレディやホンダS800以来であり、89年に発売された傑作ユーノス・ロードスターの直後だった。ビートの特殊性は、モノコック構造を採用したオープンカーだったことだ。第三には、軽自動車としての立ち位置である。
国民車構想に端を発し大衆車や商用車に限られていた軽自動車は、歴史の中で時にスポーツモデルが生まれたことはあったものの、むしろその高性能化が仇となって存在意義を問われ続けるという憂き目に遭った。その中でビートは「遊びグルマとしての軽自動車」という分野の湧出点だった。
70年代に世界をうならせた一連のスーパーカー、そしてその流れを汲むNSX。対照をなすミニミッドシップという存在のビート。ビートはその価値を、NSXやロードスターのように世界の市場に問いかけることはしなかった。
必要最低限のサイズに楽しさを詰め込んだスポーツバイクのようなコンセプトはまるでホンダの原点に回帰するよう。ホンダ小型スポーツカーの息吹を蘇らせたクルマ。手軽な存在のはずであるのに、なんと稀有な存在だったことか。
小型ミッドシップオープンはその後トヨタMR-Sを経て、近年話題のホンダS660が現行販売され、ホンダ自らビートで切り開いた分野を牽引し続ける。「ホンダらしさ」を社内外から常に問い続けられるメーカーであるホンダ。新技術を携え時代を先導するクルマを生み出し続けることが自他共に描くホンダの姿なのだろう。
「もともとはロックギタープレーヤーだったんだ」
ヨルスさんの話題展開は突飛だ。メカニックとは思わせない服を身にまとい、アーティストとしての香りを漂わせる。アメリカ国外での音楽活動経験も多く、名古屋で演奏したこともあるという。
「ロックが好きで、やっぱりステージに立ちたいって思うんだ。だからコンサートツアーなんかもやったことがある。ところがね、お金にはならない」
音楽業界は甘くはない、と言った。
「ツアーを企画して専門のスタッフも雇って、終わって帰ってきてみたら5千万円もの借金になっている。借金を返済するのにCDを売る。最近じゃダウンロード販売だし、いくらも自分の手元には来ないんだよ。
1曲売って0.2円、みたいな。54歳までに大金持ちになってなかったらやめよう、って思って頑張った。でもさ、マイケル・ジャクソンみたいな大物にならないと音楽業界じゃなかなか儲からないんだ」
【画像12枚】メカニックらしからぬ服装で、アーティスト気質のオーナーだが、クルマへの愛は本物。ビートはホイールは前後で異径が標準。2台目となるこの個体にはRSワタナベ製エイトスポークが装着されていた。デュアルエキゾーストに加え無限のパーツで足回りを強化してあったそうだが、「すぐにボトムアウトする」とサスペンションにまず不満を一言。それでも「エンジン、サウンド、トランスミッション、全ていい。コーナーでのシャシーの挙動が今ひとつ気に入らないんだけど、でもこのクルマは手放さないよ」と概ね満足の様子だった>>バックしようとした時、ヨルスさんはこんな姿勢をとった。左ハンドル車に慣れているのでバックするときは右側から後ろを見るクセがついているようだ。「左手でのギアシフトは簡単にできるけど、ウインカーとワイパーのレバーの操作を間違えることはしょっちゅうだよ」。
>>ビートが小さいクルマなのは重々承知している。それでもアメリカの風景の中に入れてしまうと、その姿はおもちゃのようにさえ見えた。ヨルスさんの運転するビートはクルマの少ない裏通りをキビキビと走っていた。
>>町工場の立ち並ぶ袋小路の目立たない場所にショップはある。シャッターを閉めてしまうと掲げられた地味な看板だけがカーショップらしいことを伝える。「この看板は以前にどこかで見つけたもので、見た目がカッコいいと思ったからつけたんだ」。だから「EDDINS MOTO」は自分でつけたショップ名ではなく、実際の屋号は違うのだそうだ。
【3】へ続く初出:ノスタルジックヒーロー2018年12月号 Vol.190
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
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