【2】から続く本連載の第34回(ノスタルジックヒーロー178号掲載)でも紹介した
マレーシアのニッポン旧車事情だが、今回はさらにディープに、観光地としても知られる「東洋の真珠」ことペナン島での旧車ミーティングを取材した。近年では観光地としてだけではなく、エレクトロニクス産業の発展も著しいペナン島は、人口も車両の数も増加中だという。当然それに比例してニッポン旧車のファンも増えているようだ。
【ニッポン旧車の楽しみ方第45回 マレーシア・ペナン島のニッポン旧車ミーティング vol.3】
1時間ほどの山道ツーリングの末に到着した場所は島内北西部テロックバハン(「熱の湾」の意味)町にある森林公園だった。公園内の高低差のある谷を流れいく小川は途中で堰き止められ水浴場となっている。水浴場の脇の広場で先発隊のメンバーがすでにバーベキューの匂いを煙らせていた。
「『オールドスクール』とか『ダットサン』とかそれぞれのイベントに名前をつけて集まるんですが、参加するメンバーはいつもだいたい一緒。だからといってクラブを組織して役を決めたりとか会費をとったりとか、そういうことはしていません」
バーベキューをほおばりながらアザリさんは、自分たちの活動について明かした。旧車仲間はたくさんいても組織は作らない。原始的に見えるが、それは単に趣味に肩書など作らず気楽なのが好きなだけ。志を共にする仲間は組織の中も外も、上も下もない。
「年に1度マレーシア全体の旧車で行う大きな集まりをやっていて、みんなでツーリングに行くんです。地域ごとのメンバーの持ち回りで毎年目的地を企画します。遠くにいる仲間が企画してくれたほうが楽しい。普段は行かない遠い場所へ行けますから。地元の仲間と集合して目的地に向かい、途中でクルマが止まっちゃったりとか、トラブルに見舞われるのも楽しいんです」
今回のバーベキューは地元ペナン周辺に住むメンバーの集まりだった。ラマダン(断食月)に入る直前の週末の集会。信仰上の食事制限が始まる前に楽しもうという企画だ。マレーシアは多人種・多宗教の国。
ラマダンを行うのはイスラム教を信仰するマレー人が主体で、そのほかの人たちはちょっとだけ申し訳ないと思いつつ普通の食生活を継続する。ラマダン中の人たちも他人に強要することはない。自分の信じるものを、自身で一心に信じ続けるゆえの行為だからだ。
旧車を愛する心も同じ。彼らの旧車への一途な思いは昇華した宗教観のようなもの。そしてその聖地は、日本。
「今年9月にはいよいよ、初めて日本に行くのでとても楽しみです。有名な『東京オートサロン』にも行きたかったのですが、日本の冬は寒いからだめ。誰も冬服なんて持ってませんから」
アザリさんとアエルールさんが口を揃えて言って笑った。日本へのインバウンドが増えたのは一般観光客だけでなく、「ニッポン旧車を日本で見ること」を夢に持つ人たちがいるから。我々が大切にしてきたニッポン旧車は確実に、日本の文化遺産、観光資源と自負できる段階に来ている。
【画像18枚】日本の自動車メーカーから製造技術が導入されて工業化が推進されたマレーシア。さらなる工業化に際し、再び日本を手本としてくれるのだろうか。>>スポーツイエローに塗装したPB210系ダットサン・サニー。足回りにはなんとダイハツ・ハイゼットの部品を流用しているという。
>>パール塗装の仕上がりがずば抜けて美しかったKE70系トヨタ・カローラリフトバック。
>>改造度が結構高かったB11系日産サニー。きれいに塗装されたエンジンルーム内も鮮やかだった。ちなみに、マレーシアでサニーの組み立て生産が始まったのはこのB11系からだ。
>>とても珍しいハイルーフ仕様の1983年式トヨタ・カローラワゴン。バッテリーをカーゴスペースに移設したのは「エンジンルームをきれいに見せるため」だそうだ。リアウインドーには日本の保管場所標章が貼ってあった。日本国内仕様をまねするのがカッコイイのは海外どこでも同じようだ。
【1】【2】から続く初出:ノスタルジックヒーロー2018年10月号 Vol.189
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
マレーシア・ペナン島のニッポン旧車ミーティング 第45回 アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方(全3記事)関連記事:アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方