フィンランド・ スペシャル【1】日本列島2個分も北に位置する北欧の国。日本旧車のミーティングに同行|アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方 第27回

ミーティングオーガナイザーのピルッコ・ファルディッグさん(左)とセッポ・サールニオさん(右)と1976年式ダットサン200L

       
1950年代から日本製の乗用車や商用車は、世界各国に輸出を開始した。言葉では理解していたつもりでも、私たちの知らない土地で使われている国産旧車を目にすると、それは感慨深いものがある。この連載「アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方」が北アメリカ大陸を飛び出して、初めてヨーロッパからリポートをお届けすることになった。北欧の国のひとつ、フィンランドの日本旧車オーナーたちの様子を紹介する。

【 アメリカ発! ニッポン旧車の楽しみ方 フィンランド・ スペシャル Vol.1】

 ヨーロッパを訪れる機会がやってきたのは4月のことだった。ヘルシンキ空港の建物から外へ出ると、風がまだ冬の肌触りがした。見渡す景色がどことなくくすんで見えたのは、冬の名残か、それとも舞い上がるほこりのせいなのか。スパイクタイヤの音が、時折遠くから聞こえてきた。

 片側2車線の高速道路には整然とクルマが流れていた。セアトやシュコダという見慣れないエンブレムが、VW、アウディ、フィアット、シトロエン、トヨタ、マツダ、ホンダなどの小型車に交じって目に入る。左側の追い越し車線を、メルセデスとレクサスのセダンが、ゆっくりと抜いていった。

 ヨーロッパ北部の国、フィンランド。それは、日本よりもさらに日本列島2個分も北に位置する、はるか遠い北の国。長い冬の終わりがようやく訪れようとしていた4月末の土曜日、この国に住む日本旧車ファンたちが集った。2015年シーズン初となるミーティング。早朝の肌寒さを残したままに、すっきりと晴れあがった空は、幸先のよい夏の到来を予感させた。


>>【画像25枚】首都ヘルシンキ郊外にあるエスポー自動車博物館に、フィンランドの日本旧車が集まったショットなど。2015年シーズン初となったミーティングは、晴れた空のもと、誰もが安心して旧車を走らせられる絶好のコンディション。どういうわけか黒い服ばかりがやけに目立ったのは、フィンランドの人の好みなのか、それともクラブユニフォームのTシャツやパーカーが黒だったせいなのか




ミーティングオーガナイザーのピルッコ・ファルディッグさん(左)とセッポ・サールニオさん(右)は、フィンランド・ニッサンクラブの役員を長年務めている。この1976年式ダットサン200Lは15年前に入手。足回りを整えた後の2年目の夏、念願のつや消し黒にボディを塗る作業を始めた。ところがエンジンリフトが壊れてエンジンが落下、フロントガラスが割れてしまった。その瞬間2人とも言葉が出なかったという。何とか代わりのフロントガラスを見つけて、それからは日本からもパーツを取り寄せたりしてJDMルックに近づけた


 フィンランドという国にはどんなイメージがあるだろう。白夜、サウナ、ムーミンとサンタクロースの住む国。ノキアやマリメッコ。そして、言わずと知れたラリー王国。
 首都ヘルシンキ郊外の自動車博物館の駐車場にこの日の朝、50台あまりのクルマが姿を見せた。日本から遠いヨーロッパの、さらにその北の果てで見る日本旧車の大群。それは圧巻であり、そして何よりも感動的だった。

 クラブで参加したフィンランドニッサンクラブは、結束の固いクラブ。そのクラブのピルッコ・ファルディッグさんがこの日の企画全般を取りはからった。ニッサンスポーツカークラブから参加のツオモ・ペンティネンさんがミーティングをリードする中、博物館のスタッフメンバーとともに、現地旧車雑誌「モビリスティ」誌のキンモ・コイスティネンさんに加えて、「クラシコット」誌からもミーティングに出席。本誌も併せてそれぞれの交流を深めた。

 会場をそぞろ歩く参加者が並んだクルマを囲んで、どこからともなくクルマ談議が始まるのは、万国共通の風景。ただ、ボンネットを開けてエンジンを見せるクルマはここでは多くなく、オーナーたちのしゃべる声のトーンも低い。積極的に自分のクルマを宣伝しようとはせず、互いに遠慮がちに会話を楽しむのが慣習らしかった。

 博物館を後にして30分ほどツーリングを楽しむと、高速道路脇のドライブインへ到着。ここで昼食をとりおなかがふくれたところで、誰もがようやく目が覚めたかのように、おしゃべりが弾み出した。どうやらフィンランドの人たちは、引っ込み思案だけれど、おしゃべりは大好きな様子。この国での日本旧車の歴史や個々のクルマ事情について徐々に、そして熱心に語り始めた。





レイヨ・カンカーンパーさんと奥さまのアウリさん(車内)のフィンランド仕様(寒冷地仕様)のダットサン1200。助手席足元に後付け電動ファンヒーターを備え付けるのもこの国では一般的。冬には、乗り込む前に車内を暖めて凍り付いたウインドーを溶かしておくためだ。フィンランドにおけるダットサンにはある都市伝説があるという。それは、フィンランドに到着した運搬船が火災にあい、積み荷だったダットサン350台が被害を受けた。





アヌ・カルッツネンさん(左)とアキ・サーレラさん(右)が14年所有するMS51トヨタ・クラウンはフィンランドへの輸入数が少なく、この個体は1970年にスウェーデンで輸入登録されたもの。「冬にも走る」派のサーレラさんは他にも6台のトヨタ旧車を所有。1993年創立の「クラウンとコロナのファンクラブ」の会長として現在活躍中。





4代目トヨタ・カローラに人気がある理由の1つは、雪上でテールスライドして遊ぶのに、ちょうどいいパワーと抜群のハンドリングを持つからだ。このオールシーズン仕様のカローラのオーナーのベンニ・ティカンデルさんは写真に写るのを遠慮し、おしゃべりも控えめだったが、クルマを説明するその低い声には熱がこもっていた。





この国で見かけるラリー仕様車は、どういうわけかカッコいい。フロントフェンダーに書き込まれたフィンランド語のドライバー名が、ラリー仕様の雰囲気を盛り上げるマツダRX-7。サイドミラーに注目。80年代にはやったというエンゲルマンのセブリングミラーが、フィンランドの人にはクラシック感をもたらすらしい。


【2】 に続く

ノスタルジックヒーロー 2015年 10月号 Vol.171
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

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text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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