今回は趣向を変えて、いつもの「アメリカ発」ではなく「沖縄・石垣島発」の特別編をお届けしよう。カリフォルニア在住の筆者・増井久志さんが、2017年夏に石垣島を訪れた。日本中どこにでも旧車好きはいるもの。地元のオーナーとコンタクトが取れたことで、離島での旧車ライフの現実について、つぶさに話を聞くことができた。そのリポートを紹介する。
【アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方 第41回 沖縄・石垣島発 特別編 Vol.1】
島の愛称は「ぱいぬ島(南の島)」。沖縄県石垣島は日本の南端に位置する島のひとつ。さんご礁に囲まれたこの島の高台に立ってみれば、明るい空の下に白い砂浜と青い海が目に映える。
世界中の、どんな小さな町にだってクルマを好きな人はいるものだ。ただ、旧車となると話は少し難しくなる。
「島には今でも何台か旧車があるみたいです。旧車に乗りたいからと、本土から持ってくる人が結構いるんです」
この島の旧車乗りの様子を紹介してくれたのは石垣島のハコスカオーナー。この島で生まれ、今は板金ショップを構えている石垣島ネイティブの旧車ファンだ。
「小学生の時に兄の影響でホリデーオートとか雑誌を見るようになって、クルマが好きになりました。最初は自分でクルマの修理のまね事をしていました。そのあと沖縄本島にある学校へ通って板金の勉強をして、本島のトヨタのディーラー店に8年間勤めたあと、島へ戻って板金屋を始めたんです」
ハコスカに乗りたかったという小学生時代の夢は、生まれ故郷のこの島にいながらにして5年前にかなった。その車両は厳重に車庫内に保管してある。
「一時はケンメリや2代目ローレルも見かけましたが、もうほとんどが消えたと思います。塩害のせいなんです。車庫の準備をせずに持ってきて、そのまま屋外駐車にしてしまうのがいけない」
ガレージ知念店長はそう説明した。塩分と湿気を多分に含んだ海風が吹き付けるため、新車でも3年でサビが浮くのも珍しくないという。手近にレンタル車庫があるわけでもなく、ガレージ知念店長もショップ脇にハコスカ専用の車庫を作った。
>> 【画像14枚】「また旧車が1台消えてしまう」とガレージ知念店長が残念がる1973年式トヨタ・セリカGTVなど。車検を受けたいが費用がかかりすぎると考えたオーナーが、抹消登録したのが2年前。ショップの前に置き去りにされたまま海風にさらされ、わずか2年の間にひどくさびてしまった。すでに車体剛性を失ってしまったことだろう。
南の島の敵は潮風だけではない。ときには台風がやってくる。
「台風は本当に怖い。どうしようもありません。クルマはガラスが割れ、巻き上げられた砂で塗装はサンドブラストをかけたようになります。2トントラックがつんのめった状態で立っていたこともありました」
修理用のガラスが島内に足りなくなるんです、と苦笑いした。南国の台風はそれほどにまで強力なのだ。そんな自然の力と対峙しながら旧車を維持し乗り継いでいく。
「KP61系スターレットからワンダーシビック、そして20歳代前半でLB210系サニー(左ハンドル車)にどっぷりのめり込みました。A型エンジンはいじるのが楽しかった。パワーが上がったのがすぐ分かるから」
日本国内に国産左ハンドル車が存在していた。そうなのだ。当時の面影こそ今ではほとんど薄らいでしまったが、ここ沖縄はかつてアメリカだったのだ。
>> キャビンをのぞいてみると、センターコンソール周辺はすべて取り除かれ、ナルディのハンドルやバケットシートが目を引いた。ロールバーは車体後方に備わるのみで、全体的にシンプルな印象だった。
>> 「ミクニよりもウエーバーのほうが好きなんで」と説明したガレージ知念店長。ボンネットの下にはL型エンジンに寄り添ってφ50mmのウエーバー製ツーバレルキャブレターが3連で収まっていた。見慣れたミクニソレックスと比べて、丸っこいベルマウスの形状が愛らしく感じられた。
【2】に続く初出:ノスタルジックヒーロー 2018年2月号 Vol.185
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方 第41回(全3記事)シリーズ: ニッポン旧車の楽しみ方 関連記事:沖縄