ニッポン旧車の楽しみ方
アメリカには、日本のような厳格な車検制度は存在しない。すべては「オウンリスク」。自分が乗っているクルマは、自分でしっかりと管理しなさいということだ。つまり旧車をベースにした車両改造も自由にできる。日本から見ると本当に恵まれた環境の中、S30ダットサン フェアレディZに魅せられたトムさんが、クルマ造りの原点に立ち返って、Zが生まれた当時には実現できなかった考え方で、新たなZを自らの手で造り出した。奇抜な改造車だけど、なんだかうらやましい……こんな旧車の楽しみ方ができるなんて。
【愛車の名は「シャーク」 ダットサン フェアレディZ Vol.1】
クルマの動力性能を高めるための基本事項は明確である。車体を軽くすること、重量バランスを良くすることなど、改めて述べるまでもない。
FR車において、エンジンを前輪車軸の後方に収めるレイアウトは「フロントミッドシップ」と呼ばれ、その他のFRと区別されるようになった。このレイアウトは旋回性能、すなわちハンドリングの向上に大いに貢献する。しかしその半面、キャビンが狭くなるので実用上は不便になるし、それならと、キャビンを広げるためにホイールベースを長くしたりすれば、旋回性能に悪影響がでるので、それこそ本末転倒だ。ゆえに「スポーツカーにのみ適したレイアウト」ということになる。
イギリスの名門ロータスは、早くから軽量化と重量バランスの重要さを認識していた。同社初期の市販車であるセブン(1957年)、エリート(1957年)、エラン(1962年)などのFR車では、FRPを使ったボディの軽量化だけでなく、エンジンを前輪車軸の後方にきっちり収めることで重量バランスの向上を図った。そして我が日本でも、トヨタ2000GT(1967年)はエランにならって、直列6気筒という前後に長いエンジンであるにもかかわらず、きちんと前輪車軸後方に収めて重心を低くする設計をしていた。
これに対して、S30ダットサン フェアレディZ(1969年)は開発経緯が異なっていた。ロードスターであった先代フェアレディを引き継ぐコンセプトで、4気筒エンジンを前提に設計が開始された。しかしながらその開発中に、アメリカでの市場を見込んで排気量の大きい6気筒エンジンの搭載が決定され、長くなったエンジンの一部が車軸の前方へ突き出るレイアウトが確定した。結果的には、性能、スタイリング、実用性、そして整備性の良さまで兼ね備えたこのZが、当時の日米両方で大ヒットしたことは承知の通りだ。
>>【画像22枚】パワートレインを両側から挟み込むように、ラダーフレームが通る。フロントサスペンションのロワアームをできるだけ長くとって、キャンバーの変化を最低限に抑える設計をしたサスペンションなど>> トムさんを訪ねたとき、4台のZが止めてあった。左の赤い280Zはガレージ内にある240Zのエンジン用のドナー。黄色の280Zは「サフラン」と名付けた奥さま用のZで、特別な改造はせずパワーステアリングを装着し、エクステリアの飾り付けをしてある。
>> トムさん自慢のZ「シャーク」。大掛かりな改造にもかかわらず、240Zのボディラインの美しさは全く崩れていない。サメをイメージしたという斬新なラメ入り2トーンカラーの塗装はやや好みの分かれるところ、と言えるか。
【2】 に続く初出:ノスタルジックヒーロー 2011年6月号Vol.145
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
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