【’61年式ビュイック・ルセーバー“Moon blessing”】MOONEYESが作り上げたオーセンティックなKUSTOMルセーバー

       
カスタムジャンルが混沌とする昨にあっても、一切ブレずにオーセンティックなブランドイメージを堅持し続けるムーンアイズが生み出すカスタムカーは当然「本物の佇まい」を魅せてくれる。ムーンアイズメイドの1961年式ビュイック・ルセーバー”Moon blessing"から、カスタムカーの王道のカッコ良さを再認識してみてほしい。



 美しいイエローのフェイドペイントが施されたボディに、真っ白なタック&ロールのインテリア。’18年の横浜ホットロッドカスタムショー(以下HCS)に突如としてエントリーを果たしたビュイックが、今回紹介する1台だ。同年のHCSでは会場のセンター付近に展示されていたので、多くの人が海外ゲストがアメリカから持ってきた車両だと思っていたかもしれない。ところがこの車両は、ムーンアイズがプロデュースし、“Moonblessing”というショーネームが与えられた、正真正銘のジャパンメイドのショーカーだ。

>>MOONEYES YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW公式HP

 物語はデビューから1年遡った’17年に始まる。HCSにもゲストとして来日経験があるSmall City CycleのTodd Asinが売りに出した’61年型ビュイック・ルセーバー(もちろんオリジナルのノーマル)をムーンアイズ代表のシゲ菅沼氏が購入することになったのだ。購入に至った理由を強いて言うなら「ルセーバーというより、前からシボレー以外のバブルトップに一度乗ってみたいと思っていたし、タイミングも良かった。これがシボレー・インパラならHOT RODにすればいいけど、ビュイックはGMの中でも凝った装飾が満載の高級ブランド。だからHOT RODにするよりは、KUSTOMのほうが絶対に似合うはずだと思ってね」と、ムーンアイズ代表のシゲ菅沼氏。



>>ここでバブルトップについて触れておくと、その名前のとおり、丸みを帯びたキャビンを表した名称。テールフィンに象徴される伸びやかで丸みを帯びた’50年代のボディラインは、’60年を境に急速にシンプルでスクエアなボディラインとなった。ところがボディとは対照的に丸みを帯びたフロントガラスやルーフはその後も数年残ることとなる。この過渡期にスクエアなボディと丸みを帯びたキャビンとのコントラストが目立ったことで、主に’60年と’61年のGM製フルサイズの2ドアハードトップ車両をバブルトップと呼ぶのだ。ちなみにフォードに関しては’60年や’61年のスターライナー、クライスラーでは’62年の300などに同様のボディデザインを見ることができるが、やはりバブルトップというとGM系のイメージが強い。
 そんなGM系バブルトップは、何もシボレー・インパラだけではない。同じGM内のオールズモビル98やポンティアック・ボンネビル、そして今回紹介するビュイック・ルセーバーなども’60年、’61年の2ドアハードトップは“バブルトップ”と呼ばれる。

>>【全画像7枚】ディティールの解説を見る。



 こうして手に入れた’61年式ルセーバーは、’18年のHCSに向けてムーンアイズの新たなKUSTOMプロジェクトとして動き出したのだった。実は日本のムーンアイズがアメリカ車を自社のショーカーとしてプロデュースするのは非常に珍しいこと。これまで真性ショーカーとして製作された車両は、V8エンジンを搭載した観音クラウンのホットロッドや、フルウッドキャビンのウッディVWなど、アメリカ車以外が多い。これはシゲ菅沼氏がカッコよくなって当たり前のアメリカ車よりも日本で身近な国産車やVWをベースにムーンアイズの世界観を表現することが重要と考えたからに他ならない。現にこれらショーカーが日本のカスタムシーンに与えた影響は、計り知れないほど大きい。

 また、何かのパーツやキャラクターのプロモーションのために製作された車両は多かったが、そういった意図を排除して、純粋にムーンアイズが持つブランドイメージや世界観のみ表現したショーカーとしては、’96年に製作されたゴールドに輝くデボネア“MOON GLOW”以来のことだという。つまりこのルセーバーは、いろんな意味でムーンアイズの看板を背負うことになる車両。気を抜くことはできなかったのだ。

 車両の製作は、神奈川のブルースモービルが担当。シゲ菅沼氏がオーダーしたのは「MOON SHINE(’17年に製作したモーターサイクル)と同じイメージであること」、そして「内装はホワイトのタック&ロールであること」、たったこれだけだった。



 そこでボディカラーはMOON SHINE同様にイエローのフェイドペイントが施されることに。フェイドペイントとは、同系の濃淡2色の塗料をボディの凹凸に合わせてフリーハンドで塗り分けることで、ボディラインやプレスラインを強調するカスタムペイントテクニックのひとつ。このクルマの場合、象徴となる丸みを帯びたルーフ部分はもちろん、イエローボディの膨らんだ部分などにホワイトを入れることで、光が当たったハイライト状態を強調し、ボディラインの凹凸をよりダイナミックに魅せている。そしてこの美しくも大胆な濃淡イエローのボディを完璧に“締めている”のが、かつてムーンアイズに所属し、その鬼才ぶりを発揮していたSUGI‐SACK氏のピンストライプだ。



 内装は当初のリクエストどおり純白のタック&ロールで張り替えられた。ダッシュ中央にマウントされた時計やアルミパネルが多用された豪華なダッシュ周りは、イエローのフェイドペイントが施されただけで、なんとオリジナルのまま。バブルトップの大きな特徴であるグラスエリアの大きいキャビンと相まって、現代車からは想像もできないほど開放的で明るいインテリアとなった。



 ’18年末のHCSデビューののち、実はペイントを一度やり直し、さらなるクオリティアップを敢行して’19年のストリートカーナショナルズに再デビューしたMoonblessing。横浜エリア1での展示以外にも、各地のカーショーに神出鬼没的に現れては、ムーンアイズの世界観を発信し続けている。

『カスタムCAR』2020年1月号掲載
BASE CAR:ビュイックルセーバー 1961年型
SOURCE:MOONEYES

PHOTO/谷井 功 TEXT/勝村 大輔

RECOMMENDED