日本車に魅せられた1人のクルマ好きが、紆余曲折を経てようやく手に入れた1台|アメリカ発!ニッポン旧車の楽しみ方|ジムニーを愛するアメリカ人オーナー|71年式 スズキ・LJ10ジムニー Vol.2

オーナーの末娘のローラちゃんはこのクルマのことをよく知っていて、「この棒の外し方、わかる?」とドアバーを下ろしながらこのクルマの乗り込み方を教えてくれた。

スズキは、1981年にゼネラルモーターズとタイアップして北米市場への販路を広げ、1985年からは自社ブランドで本格参入していた。それにはるか先立つ1963年、米国部門を設立して北米市場への足がかりとしていたが、しばらくの間は取扱店でも4輪車の存在は知られていなかったようだ。1963年といえば国内でもスズライトキャリイ(1961年)とスズライトフロンテ(1962年)を市場に送り出したばかりのころである。

 先駆的軽自動車だった「スズライト」の名前を廃し、1966年に軽トラックのキャリイはキャブオーバーに、翌年セダンのフロンテはリア搭載の3気筒エンジンとなった。車種を増やし始めたこの頃にスズキへ舞い込んできたのが、軽自動車規格の4輪駆動車「ホープスターON型」の製造という、それまでの車種開発とは全く異なる話だった。1968年のフロンテSSのイタリアでの高速走行テストなど、当時のスズキが軽自動車に対して積極的だった様子をかんがみると、この4輪駆動車という新規車種の計画は、開発チームの間でさぞかし興奮を呼んだであろうことが想像できる。

 こうして1970年にデビューした軽4輪駆動車「ジムニー」だったが、北米市場には正規輸出されなかった。当時のアメリカはダットサン510や240Zが幅を利かせ始めたころ。強い販売網も持たなかったスズキは、小さなエンジンはアメリカには合わないと考えたのかもしれない。確かに75㎞╱hといわれたジムニーの最高速度は、フリーウェイの制限速度にも満たなかった。

 それでも、当時クルマ新興国の日本に目を向けていた人は確かにいたのである。レーサーだったティム・シャープという人だ。インターナショナル・エクイップメント・コーポレーション社を通して輸入されたジムニーは「ブルートⅣ(フォー)」と改名され、アメリカ西海岸に近い州に限って販売された。

 見た目は頼りない以外の何ものでもないこの小さな日本製4WDは、それでもひとたびオフロードの現場に置かれれば、大きなアメ車4WDがとても入り込めないような場所まで平気で攻め込んでいった。その果敢な姿は、高い走破性と相まって、当時のオフローダーたちの度肝を抜いたようだ。

 水冷エンジン(LJ20)となった後も同社による輸入は続いた(左ハンドル車が追加。スペアタイヤは車両後部へ移動された)。そしてアメリカの排ガス規制の強化によって登録が困難になった74年までに、新旧両モデル合わせて3000台ほどが輸出されたようだ。


そんなジムニーを持つオーナーのケリー・マケンドリックさん。日本の軽自動車とは対照的な、巨大なアメ車の代表のような1969年式プリマス・フューリーは、1978年に亡くした兄の形見。機関系のトラブルがないのが幸いで、お金を貯めて今から14年前にようやくきれいに塗装し直すことができたそうだ。


アメリカでは「ブルートⅣ」という車名で販売された1971年式スズキ・LJ10ジムニー。71年から72年にかけて数百台が輸出されたようだ。マケンドリックさんの所有する個体は、アルベールグリーンと呼ばれた塗装や、タイヤまでもが状態のよいオリジナルであることが自慢だ。


新興住宅地の一角にあるマケンドリックさんの自宅。16人が住むにぎやかな家庭だ。愛車の2トーンカラーのS130フェアレディZは、苦労して手に入れたモノ。


ボンネット両側を押さえるラバー製のフックを外すと、フロントガラスにもたれかかる位置までボンネットが持ち上がる。その下には小さな、キャリイ譲りの直列2気筒の空冷2サイクルエンジンが収まっていた。その始動は容易で、暖機運転が済めば吐き出す白煙も少なくなり、この小さな4WDは軽快に走った。


1960年代に日本に存在した運転免許区分「軽自動車免許」で運転できた4輪駆動車「ホープスターON型」譲りの駆動機構。


大径ホイールとコンパクトなエンジンのためにドライブトレーンの搭載位置が高く、よって最低地上高も大きく取れた。結果として高い走破性が生まれ、またスキッドプレートの必要もなかった。

ノスタルジックヒーロー 2013年2月号 Vol.156(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

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text & photo:Masui Hisashi/増井久志

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